社外取締役対談

社外取締役
指名委員会委員長
監査委員会委員
高嶋 智光

社外取締役
指名委員会委員
市川 奈緒子

前例のない変革期のグローバルCEOはどう選ばれたのか
社外取締役が語る、電通グループの指名ガバナンス

2026年、電通グループは新たな経営体制へ移行しました。
AIによる産業構造変化、競合他社の合併・参入、海外事業の収益性回復、ガバナンスの更なる強化――。そうした大きな変革局面の中で、指名委員会はどのような議論を重ね、佐野 傑グローバルCEOを選任したのでしょうか。

指名委員会委員長を務める高嶋 智光氏と、指名委員会委員である市川 奈緒子氏に、経営トップ選任のリアリティ、そして電通グループの未来について率直に語っていただきました。

変革期の電通グループに、なぜ参画したのか
外から見ていた電通グループとのギャップ
「佐野グローバルCEOを選ぶ」という議論は簡単ではなかった
実績だけではなく、「人」を見ていた
指名委員会等設置会社である意味
それでも、課題はまだ多い
電通グループには、大きな可能性がある

変革期の電通グループになぜ参画したのか

―― 本日は、経営リーダーの選任をテーマにお話を伺います。まず、お二人は社外取締役として電通グループに参画されて2年目ですが、改めてご経歴と参画理由を教えてください。

高嶋:私は検事としてのキャリアを歩み、法務事務次官を務めた後に、名古屋高等検察庁の検事長となり、弁護士登録を経て、電通グループの社外取締役として参画しました。
検察庁や法務省で、組織改革や不祥事対応などにあたってきた経験から、変革期にある組織ほど、外部視点を取り入れたガバナンスが重要になると感じてきました。電通グループも、海外事業を含めたガバナンス強化や変革を進める局面にあり、そうした中で自分の経験を少しでも役立てられればと思い、お引き受けしました。

市川:私は40年余りのキャリアのうち、20数年は事業会社で、主に経営企画、事業改革、BtoBマーケティングを担当してきました。残りは、戦略コンサルティングや、官民ファンドでのベンチャー投資、事業の立て直しからイグジットまでに携わってきました。
広告やマーケティングの業界の経験が豊富だったわけではありませんので、最初は「私に務まるのか」という気持ちもありました。ただ、お話を重ねる中で、グローバル企業での経験や、変革局面での実務経験、また事業改革に携わってきた経験が、今の電通グループに少しでも役立つのではないかと思うようになり、参画するに至りました。

外から見ていた電通グループとのギャップ

―― 実際に参画してみて、印象は変わりましたか。

高嶋:かなり変わりました。
まず驚いたのは、海外事業の規模です。国内で強い会社という印象はありましたが、これほど多くの海外事業を抱えているとは正直思っていませんでした。同時に、M&Aを通じて拡大してきた組織を、どうガバナンスしていくかという難しさも実感しました。
企業はインオーガニック成長※1を進めるほど、ガバナンスも並行して強化しなければならない。特に海外では、言語や文化も異なる。そこをどう統制し、どう人財を育てていくかは極めて重要だと感じています。

市川:私も二つのギャップがありました。
一つは、AIやテクノロジーによる業界変化に真正面から向き合っていたことです。AIの進化をマーケティングにどう生かしていくのか、外からは見えにくかったのですが、戦略的に取り組んでいることが感じられます。
もう一つは、ガバナンス改革です。
外から見ていた電通には、かつての「鬼十則」に象徴される昭和的なイメージがどこかありました。しかし実際には、コンプライアンス、人財、ガバナンスの変革をかなり本気で進めていて、良い意味で印象が大きく変わりました。

※1 自社の経営資源だけによる自力成長(オーガニック成長)に頼らず、M&Aや他社との資本業務提携といった外部の手段を活用して収益や規模を拡大させる経営戦略

「佐野グローバルCEOを選ぶ」という議論は簡単ではなかった

―― 今回のグローバルCEO選任は、社内外から高い注目を集めました。実際の議論はどのようなものだったのでしょうか。

高嶋:まず申し上げたいのは、決して形式的なプロセスではなかったということです。
「会社側が決めた人にお墨付きを与える」という話ではありませんでした。本当にこの前例のない変革期を任せられる人物なのかを、指名委員会の中で真剣に議論しました。
もちろん、全てにおいて完璧な人間はいません。だからこそ、候補者の強みだけではなく、組織としてどのような体制で経営を推進していくのかまで含めて見ていました。
特に現在の電通グループは、海外事業における収益性の回復やガバナンス強化など、非常に幅広いテーマに同時に取り組む必要があります。その中で佐野さんは、日本事業を変革し、成長させてきた実績に加え、組織を前に進めるリーダーシップを高く評価されていました。
また、CEO個人だけではなく、経営チーム全体としてどう機能するか、どう補完し合うかまで含めて検討し、その結果として、変革を推進できる体制が構築できると判断しました。

市川:私自身、2025年は指名委員会の委員ではありませんでしたが、最終段階で取締役会に対して候補者選定のプロセスや議論内容の共有が行われるようになり、その中で、指名委員会内で時間をかけて検討していたことがよく分かりました。
候補者へのインタビューも丁寧に行われていましたし、私自身、グローバル企業での経験が長かったこともあって、海外事業については特に関心を持って見ていましたが、そこについても真剣に向き合いながら議論していた印象があります。
単に候補者を比較するだけではなく、「今後どう経営していくのか」「どのような体制で変革を進めていくのか」といった点まで含めて、候補者自身の考えを確認していました。そのプロセスを見て、「ここまでやっているのであれば納得できる」と、腹落ちしました。

実績だけではなく、「人」を見ていた

―― グローバルCEO候補者の選定にあたって、どのような観点で候補者を見ていたのでしょうか。

高嶋:実績は重要ですが、それ以上に人望や倫理観、部下への向き合い方を見ていました。この変革期を一人で突破できる人はいません。組織を動かし、人を巻き込み、「この人についていきたい」と思わせる力が必要です。
私自身、これまでさまざまな組織を見てきた経験から、リーダーというのは、短期的な成果だけを見る人では駄目だと思っています。10年後、20年後に電通グループがどうあるべきか、社会にどう貢献していくべきかまで見据え、その戦略を描ける人であってほしい。
それから、自分の利益を考える人ではなく、むしろ組織や人のために動ける、利他的なマインドを持っていることも重要だと思っています。当然ですが、誠実であること、実行力があることも必要ですし、組織を率いる以上、最後は体力も必要ですね。
一方で、どれだけ能力が高くても、パワハラなどで組織を壊してしまう人物、アンガーマネジメントができない人物は駄目だと思っています。組織は結局、人で成り立っていますから、そこは重視していました。
その意味で、佐野さんには、これらを備えながら、特に、未来を語れる力と、人を巻き込みながら変革を進めていく力があると感じました。

市川:私は、成功するリーダーには、どこかチャーミングさが必要だと思っています。
もちろん、人徳や倫理観、実行力は大前提です。ただ、それだけではなく、「この人を支えたい」「この人と一緒に仕事をしたい」と周囲に思わせるような、人間的な魅力があることが重要です。
一方で、CEOには厳しい判断も求められます。以前、グローバル企業にいた際に強く印象に残っているのが、「CEOは事業ポートフォリオ全体を見て判断する存在である」という考え方でした。つまり、自分の過去やしがらみにとらわれず、中長期戦略として会社にとって何が最善かを判断しなければならないということです。
ただ、そうした厳しい判断も、人としての信頼や納得感があって初めて組織がついてくる。だからこそ、CEO個人だけではなく、CxOを含めた経営チーム全体としてどう強い組織をつくるかも重要だと思っています。

指名委員会等設置会社である意味

―― 電通グループは、指名委員会等設置会社であり、社外取締役が多数を占めています。この体制は意思決定にどのような影響を与えていますか。

高嶋:非常に大きな影響を与えていると思います。
まず、指名委員会等設置会社における指名委員会というのは、会社法上、極めて強い権限を持っています。株主総会へ付議する取締役選任議案の候補者を、指名委員会が単独で決定でき、任意の諮問委員会とは、責任の重さが全く違います。
一方で、社外取締役は内部の人間ではありませんから、会社の中の人財を全て把握できるわけではない。だからこそ、なぜその候補者なのか、なぜその経営判断なのかを、執行側がきちんと説明しなければならないのです。
社外取締役が過半数を占める会社では、常に「外部に説明できるか」という視点が働きます。そこに大きな牽制機能、つまりガバナンス機能があると思っています。
そして、社外取締役側には、「その説明に穴がないか」「本当に妥当なのか」を見抜く役割がある。内部では気づきにくい問題や、しがらみがあって変えにくいことに対して、外の視点から判断していくことが重要です。
電通グループの社外取締役は、バックグラウンドが非常に多様です。ですから、いい加減な説明は通りませんし、議論もかなり率直です。正直、ガバナンスは想像以上に強く機能しています。

市川:社外取締役の役割は、株主や投資家、市場、社会といった外部ステークホルダーの視点を持ち込むことだと思っています。
指名委員会等設置会社の指名委員会は、やはり重みが違います。法定委員会として、株主や社会に対して直接責任を負っているという感覚があります。
また、社外取締役は、単に「反対する人」ではありません。組織というのは、往々にして過去の成功体験や既存の考え方に影響を受ける側面がありますが、そこに外部視点を入れることで、意思決定の質を高めスピードを上げることができる。
電通グループの取締役会は、多様な経験を持つ社外取締役が多く、議論の過程で学ぶことが多いと思います。それぞれ違う視点を持っているからこそ、「本当にそれで良いのか」という議論が自然に生まれる。そうした多様性そのものが、ガバナンスの実効性につながっていると感じています。

それでも、課題はまだ多い

―― 一方で、今後に向けた課題はどこにあると感じていますか。

市川:人財の多様性と層の厚みだと思います。
特に、グローバルな事業運営や変革を担える人財を、今後どう育てていくかは重要なテーマです。これまでの強みを支えてきた人財や組織の在り方がある一方で、今後を考えると、海外マネジメント経験や多様なバックグラウンドを持つ人財は、まだ量的に十分とは言えないと感じています。
また、AIによって業界構造そのものが変わる中で、取締役会や経営陣に求められるスキルセットも変化していくはずです。将来の事業を見据えたときに、どのような取締役会構成や経営チームが必要なのか、どのタイミングで何を変えていくべきなのかを、継続的に議論していかなければならないと思っています。

高嶋:社外取締役には、当然限界もあります。
先ほども触れたように、内部にどのような人財がいて、どういう強みや課題を抱えているのかを、完全に把握することはできません。だからこそ、我々は常に謙虚でなければならないと思っています。
ただ一方で、内部では気づきにくい問題や、分かっていてもしがらみがあって変えられないことに踏み込むのも、社外取締役の重要な役割です。
組織は、これまでの経緯や既存の人間関係に影響を受けることがあるからこそ、必要に応じて外部の視点を取り入れながら、会社の将来にとって何が最善かを見極めていくことが重要です。
その意味で、ガバナンスは、社外取締役を含め、客観的な立場から将来の意思決定を支えるものだと考えています。

電通グループには、大きな可能性がある

―― 最後に、これからの電通グループに期待することを教えてください。

高嶋:電通グループは、社会にとってとても大きな役割を持つ会社だと思っています。日本だけでなく、海外でも貢献してもらいたい。
だからこそ、誠実に仕事をし、信頼を得ながら、長期にわたって社会に貢献する企業であってほしい。
電通グループのグローバルCEOには、そうした長期視点と、人を大切にする姿勢の両方を持ちながら、会社を導いていってほしいですね。

市川:変革はまだ途中です。
電通グループは社会インフラの一翼を担う会社であり、大きな環境変化の中、日本における業界トップとしての存在であり続けることは使命でもあると思います。
AI時代だからこそ、人間にしかできない価値が重要になる。未来に希望を持てる社会をつくる。グローバル社会の進化の中心に立てる会社であってほしいと思います。

2026年6月

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