電通グループ、パナソニックHDと共同で「SSIE(自己主権型情報環境)」に関する研究を国際学会で発表
2025.12.12
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― 市民参加が続かない構造的課題と分散型データアーキテクチャにより持続可能性を検証 ―
株式会社電通グループ(本社:東京都港区、代表執行役 社長 グローバルCEO:五十嵐 博、以下「当社」)のR&D組織「電通イノベーションイニシアティブ※1」(以下「DII」)は、パナソニック ホールディングス株式会社(本社:大阪府門真市、代表取締役社長執行役員グループCEO 楠見 雄規、以下「パナソニックHD」)、ならびに当社の共同研究先各社※2と共同で、「Self-Sovereign Information Environment(SSIE:自己主権型情報環境)」の研究成果を環境・サステナビリティ分野の国際学会「SGEM Vienna GREEN 2025」にて発表しました。
本研究は、環境課題や人権課題などに取り組む市民参加型プロジェクト※3において、「なぜ社会貢献活動が続かないのか」という問いに対し、Web3やブロックチェーン技術※4を活用しながら、個人が自らの行動データの主導権を持てる新しい情報基盤のあり方を検証した、実証結果をまとめたものです。
近年、カーボンニュートラルや人権尊重に向けて、企業・自治体・NPOなどがさまざまな社会貢献プログラムや行動変容を促すアプリ、ポイント制度を展開しており、その多くが、企業や行政がデータを集中管理する「カストディアル型(custodial)」を採用しています。しかしこうした取り組みは、「提供した情報の用途が利用者から見えにくい」、「参加者自身がデータの制御権を持てない」、「プラットフォームごとに仕組みが異なり、サービスが変わると参加履歴が途切れてしまう」など、「一時的な参加にとどまり、継続的な活動がしにくい」という構造的な課題が指摘されています。
今回発表するSSIEは、こうした課題に対して “ユーザーが行動記録の主権を持つ” という「構造的主権(Structural Sovereignty)」の考え方に基づき、「カストディアル型」とは異なった、「透明性(行動記録の流れや検証プロセスが外部から確認できること)」・「プライバシー(個人が特定されない形でデータを扱えること)」・「自律性(参加者自身が、どのデータを、誰と、どの範囲で共有するか決められること)」・「検証可能性(社会貢献活動の成果が、第三者からも確認できること)」の4つを並立させる新しい情報環境を提供します。
インドと日本をつなぐ国際協働モデルの実証
本研究では、インドの教育アクセス課題と日本国内の市民参加モデルを題材とし、「国境を越えた市民参加は、どのような情報設計であれば持続可能になるのか」をテーマに、SSIEの実効性を検証しました。
実証① インドでの取り組み:身分証のない女子学生の教育機会を支える「自己証明型エスクロー」
インドでは住所証明や身分証がないことを理由に、十分な教育を受けられない女性が数多くいます。
今回の実証では、女子学生自身が授業参加や試験結果といった行動を記録し、教職員や教育機関がその記録を検証したうえで、学費や生活費にあたる支援金が段階的に提供されるエスクローを構築しました。これにより、学生は第三者に依存することなく、自らの努力と実績をデジタル証明できるようになり、支援者側も支援金の使途や成果を追跡可能になるなど、双方にとってメリットを享受できることになります。
実証② 日本での取り組み:大学生がファンドレイザーとして国際協力の主体に
日本では大学生がクラウドファンディングを活用し、ファンドレイザー(寄付調達者)兼コミュニケーター として、インドの女子学生と日本のシニア層の寄付協力者をつなぐ役割を担います。同時に、社会課題のリサーチや現地パートナーとの調整、寄付者への情報発信を実施します。これにより、シニア層の寄付者は、トレーサビリティ基盤を通じて寄付金の行方と成果を確認できるようになり、「社会課題に主体的に関わる日本の学生」と「経験や資産を社会に還元したいシニア層」が、世代を越えてつながる新しい国際協力モデルの有効性を検証しました。
この協働モデルは、デジタル技術と市民参加が融合した新しい国際支援の形として高く評価されました。当社と共同研究各社は本実証を通じて非地位財経済圏向け与信提供サービス(トレーサビリティ基盤)の市場性について検証し、持続可能な社会貢献コミュニティの実現に資する機能実装を進めます。
論文では、SSIEが中央管理者に依存せず機能するための4層アーキテクチャを定義しています。
1) Sensing Layer(行動記録):
学習参加、ボランティア活動、寄付など、市民の行動を時系列で記録します。
2) MRV Layer(検証:Measure–Report–Verify):
行動記録が事実に基づくものかを、関係者による確認やデジタル証跡によって検証します。
3) Tokenization Layer(行動証跡NFT化):
検証済みの行動記録をNFT(非代替性トークン)として発行し、改ざん困難な形で保存します。
4) Incentive Layer(金銭に依存しない認証インセンティブ):
金銭だけに依存せず、認証バッジや評価指標など、「やりがい」「信頼」といった非金銭的価値をインセンティブとして設計します。
これらが日本・インド双方の実証で問題なく作動し、プライバシー・透明性・継続性を同時に実現したデータ処理が成立することを確認しました。
<本プロジェクトの今後について>
当社とパナソニックHDは、本実証成果を踏まえ、SSIEアーキテクチャが、地域コミュニティ、教育、そして環境・サステナビリティ領域のような、国内外の多岐にわたる社会課題へ応用可能であると考えています。
まずはサステナビリティをテーマとした国際学会において、個人レベルで実行可能な「環境課題へのエンゲージメント行動」と、既存のカーボンクレジットや温室効果ガスの排出削減などの環境分野における「社会的インパクト指標」を結びつけることで、持続的な行動参加を促す基礎技術としてのSSIEの可能性について深く掘り下げ、研究・技術展開をさらに強化していく予定です。将来的には、このSSIEアーキテクチャを様々な社会課題解決に応用することで、より広範なサステナブル社会の実現に貢献していきます。
<ワークショップの概要>
今回参加する国際学会では、両社が共同ホストとなり、国内外のサステナビリティ政策、グリーン変革(GX)、データガバナンス分野の有識者が集うワークショップを開催します。ワークショップでは、SSIEアーキテクチャの有効性、実証プロセスの透明性、環境領域における応用可能性について議論しました。
● 開催概要
タイトル:Why don't social contribution activities last? And Why is Citizen Participation Still Limited? - Self-Sovereign Information Environments for Global Sustainability
日時:2025年12月4日(現地時間 11:30–12:30)
会場:国際学会 SGEM Vienna GREEN 内(Room Leopold)
主催:当社 / パナソニックHD
内容:SSIEの技術解説とインド・日本の実証報告に加えて環境・サステナビリティ領域への応用可能性に関して参加者とディスカッション
※1:DIIは、電通グループ全体のR&Dを推進する当社内組織です。また、株式会社電通、株式会社電通総研、株式会社セプテーニ・インキュベートの3社との共同で、Web3領域における新しいビジネスの研究および実践を行うグループ横断組織「web3 club™(ウェブスリークラブ)」を組成しています。「web3 club™」発足の詳細は以下リリースをご覧ください。
URL:https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000804.html
※2:パナソニック ホールディングス株式会社、Onplanetz株式会社、Table Unstable DAO合同会社
※3:DIIはパナソニック HD とWeb3.0技術を活用し社会貢献行動を促進するトレーサビリティ基盤開発プロジェクトを進めています。プロジェクトについての詳細は以下のニュースリリースよりご覧ください。
URL:https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001207.html
※4:ブロックチェーン技術とは、世界中に点在するノード(通信ネットワーク上に存在する端末や交換機)に同一の記録を同期させる分散型ネットワーク技術のことです。プログラムや情報の破壊、改ざんが困難なネットワークを構築し、データや権利情報を複数の事業体で共有し、共同で管理することに適しています。
以 上
【本R&D活動に関する問い合わせ先】
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ 鈴木
URL: https://innovation.dentsu.com/
Email: innovation-initiative@dentsu.co.jp
【リリースに関する問い合わせ先】
株式会社電通グループ グループコーポレートコミュニケーションオフィス 小嶋、島津、中川
Email:group-cc@dentsu.com