2030サステナビリティ戦略

2021年度に電通グループは、ステークホルダーに対する深いエンゲージメントと、企業・産業としての重要事項(マテリアリティ)の理解に立脚した「2030サステナビリティ戦略」を導入しました。その際に私たちが定義した5つのテーマ― 気候変動対策、持続可能な消費、多様性とインクルージョン、平等の推進、信頼― の重要性は、今日でも変わっていません。

2030サステナビリティ戦略
2030サステナビリティ戦略

持続可能な世界

私たちは脱炭素化に向けた努力を重ね、2021年度には、目標に向けて大きく前進しました。スコープ1と2の排出量を、基準年となる2019年度の実績値から29.0%、2020年度の実績値からは10.6%削減しました。CO2相当量(tCO2e)に換算した場合は、2019年度の33,962 tCO2e、2020年度の26,955 tCO2eに対し、2021年度は24,103tCO2eでした。全社的なリモートワークの推奨も一因ではありますが、各国における再生可能エネルギーのFIT(固定価格買取制度)の活用や再生可能エネルギー証書の購入など、100%再生可能な電力による事業運営を目指した取り組みが大きく貢献したと考えています。特に当社グループの海外事業においては、100%再生可能エネルギーを利用することでRE100の認定取得を継続しています。

また基準年となる2019年度の実績値から、スコープ3における従業員の出張に関連する排出量は87.5%減になり、水の使用量を85.1%、廃棄物の排出量を3.1%、紙の使用量を67.5%に、それぞれ削減しました。

2021年11月のCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)において、パリ協定の目標達成が困難になりつつあるとの警鐘が鳴らされました。2015年のパリ協定に基づいて各国が立てた目標がこの会議で初めて再検討された結果、約200の参加国がグラスゴー気候合意を採択し、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を継続することで合意しました。

これに呼応して電通グループは、さらに高い目線で努力する意思を固めました。海外事業が、2040年を年限としたネットゼロ/脱炭素化をターゲットとして定めたことにより、電通インターナショナルは、世界においていち早く、ネットゼロターゲットの実現性を認められた企業のひとつとなりました。これはSBTイニシアチブ(SBTi)による新基準「ネットゼロ・スタンダード」に基づく認証であり、私たちのコミットメントと計画の実効性が外部機関によって保証されたと言えます。

COP26の開催期間中を通して、私たちは事業と社会の変革を提唱してきました。電通インターナショナル社のグローバルCEOウェンディ・クラークの指揮の下、直接的な行動の必要性を訴え、主要なステークホルダー、そして世界経済フォーラムやWe Mean Business連合のような組織へのエンゲージメントを深めました。また、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)のメンバーとして、CO2の排出量削減、除去、報告を中心とした12の優先事項を規定し、官民協力して気候変動対策を実行していくことの重要性を呼びかける「Business Manifesto for Climate Recovery」に参画しました。持続可能な社会の実現に向けて一丸となって、精力的に取り組む世界トップレベルの企業107社と共に電通グループは、地球規模での気候変動対策に取り組むこのマニフェストに参加しています。

その他にも、生活者や社会に対して、電通グループだからこそ働きかけられる機会を活かし、持続可能な消費や生産を継続的に推進していきます。一つの例として、COY(COP26 のユース版)開催と時を同じくして、「Rise Upチャレンジ」というグローバルプログラムを立ち上げました。顧客企業にも協力をしてもらい、温室効果ガス発生の一大要因である食品ロス削減に向けた広告キャンペーンの発案を世界中の若者世代に呼び掛けています。

こういった活動は当社グループの「2030サステナビリティ戦略」の一部であり、2022年4月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の見解とも合致するものです。この報告書では、電気自動車や植物性食品など気候変動に配慮した製品やサービスに対する需要が増えれば、全世界のCO2排出量の40~70%の削減が可能であるといった「需要の削減」について初めて触れられています。私たちの戦略においても、この傾向に則した内容が今後ますます重要になっていくと考えられます。

2022年度にはセールスフォースの「Net Zero Cloud」を実装する計画です。これはリアルタイムでカーボンフットプリントの状況を把握するデータモニタリングシステムで、実装によって私たちの脱炭素化計画の透明性が一層高まることが期待されます。

公平で開かれた社会

2021年は世界中の生活者がパンデミックに引き続き翻弄された一年でした。変異株も出現したことで様々なロックダウンや復興計画が混在したこともあり、国家単位、コミュニティ単位双方で復興の不均衡が見られました。それは、女性や人種的マイノリティなどが直面する不平等が深刻化する結果にもつながっています。私たちは、2021年を通じて、電通グループ内外に対して、インクルージョンやエンパワーメントの重要性をあらゆる機会において呼びかけました。

全社的にダイバーシティと異文化への理解浸透に重点的に取り組むことで、従業員のエンゲージメントスコアが向上し、他の指標もターゲットに向かって着実に前進しました。例えば、管理職に占める女性の割合は日本では12.8%、海外拠点では34.0%まで上昇しました。また、国連による女性のエンパワーメント原則と国連グローバル・コンパクトの「Target Gender Equality」を採択し、ジェンダー平等への意識をさらに高めています。ジェンダーを足かせにさせないことの重要性を認識し、アメリカとカナダでは、2025年度までに従業員の30%をBIPOC(黒人、先住民、有色人種)とする新たな目標を設定しました。

日本では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)関連の社会問題をとりあげ、ソリューションを提供しているウェブマガジン“cococolor”が発刊10周年を迎える2022年は、今まで以上に積極的に事業を展開中です。これまでの情報発信に加えて、DJN内で様々な知見を持つ従業員や外部識者がDE&Iの課題や取り組みについて語り合うオンラインセッション「DJN DE&I WEEK」の開催や、DE&I推進を支援するワークショップ型ソリューション「ココカラ ジャーニー」を提供開始するなど、既存のウェブマガジンに捉われない展開にチャレンジし続けています。

私たちは、米国の人権団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団のCorporate Equality Index 2022(企業平等指数調査)において、初めて最高スコアの100点を獲得しました。当社グループは今後も、組織のあらゆる階層においてDE&Iを最優先事項として認識し、様々な取り組みを推進していきます。

今後も国連のSDGsに基づいた活動を継続し、SDG5「ジェンダー平等の実現」とSDG10「人や国の不平等是正」を柱に、平等性の実現を推進していきます。私たちが注力するテーマは、女性に対する暴力の根絶、女性のエンパワーメント、そして性別、ジェンダー、障がい、人種などを超えた平等です。先入観や既成概念に疑問を呈する広告キャンペーンのメッセージを、2021年度には、2億人以上に届けることができました。2030年度までに10億人のオーディエンスに届けることが私たちの目標です。

当社グループが実施したSDGs関連の広告キャンペーンが数々の賞を受賞したことで、こういった取り組みの重要性がさらに認識されるようになってきています。例えば、ルーマニアで、小規模な路上販売店に平等な市場参入の機会を提供したマスターカードの「Roadside Markets」というキャンペーンは、2021カンヌライオンズでシルバーライオンを受賞しました。また南米では、アルゼンチンのNPOであるFENAが、音楽における性差別と女性蔑視的表現に問題を提起した「Hits Que Duelen」キャンペーンで、 Isobar ArgentinaがECHO Latamのグランプリおよび最優秀クリエーティブキャンペーンと最優秀ソーシャルグッドキャンペーンの2部門で金メダルを受賞しました。また、香港の市民団体RainLilyと実施した、ジェンダーに基づく暴力に反対するキャンペーンは、Campaign Asiaから、2021年にアジアパシフィック地域で発表された中で賞賛に値する5つのキャンペーンの1つに選ばれました。

私たちは、未だ世界中で問題視されている、健康や福祉における不平等の解決に向けた活動も行っています。コロナ禍発生から一年以上が経ち、ワクチン接種機会の不平等が顕在化していることに対して、電通グループのチームが世界中から結集し、数々の広告キャンペーンを展開。延べ3億7,000万人へのリーチを達成しました。一方、マラリア撲滅を目指すNPO、Malaria No Moreへの無償協力も継続しており、「Draw The Line」キャンペーンは、開始から6ヶ月間でアフリカ域内52の国と地域、4億4,000万人にリーチしました。このキャンペーンは、2021年World Media Awardsのグランプリとソーシャルグッド賞をはじめとする複数の賞に輝いています。2022年6月にルワンダで開催予定だったイギリス連邦首脳会議はコロナ禍のため直前で延期となりましたが、その事前段階において、同活動の認知向上に努めました。医療環境の改善と感染症予防をテーマとした我々の取り組みは、目標としていた2億5,000万人をはるかに上回る、延べ8億人を超える人々に届けられました。

デジタル社会の価値向上

世界の各所でロックダウンが行われたことで、より多くの人がより長い時間をオンラインで過ごすようになりました。同時に、インターネットを通したデマが横行し、生活者のプライバシーやデジタルウェルビーイングも脅威にさらされる結果となっています。私たちは広告業に関係する各社と共にGlobal Alliance for Responsible Mediaなどの団体と協力して、デジタル空間の安全性向上に努めています。また私たちは、すべての人々がデジタル技術とサービスを安全に活用するスキルと知識を得る機会を与えられるべきだと信じ、特に貧困地域の若い世代のデジタルリテラシー向上に注力しています。

私たちは、グローバルに広がる活動拠点と専門性を活かして、2030年度までに10万人の若年層を支援する計画です。電通グループの旗艦教育プログラムである「The Code」、各種教育機関とのネットワーク、そして複数の大学とのパートナーシップを通じて、計画の実現に取り組んでいきます。

コロナ禍の影響による休校などはありましたが、この取り組みは順調に進捗しています。2021年度には世界中で延べ12,000人以上の人々にプログラムを提供することができました。そのうち6,300人超はThe Codeを受講し、約6,000人は電通グループ各拠点独自のプログラムを通して支援を受けました。アメリカにおいて、当社グループ企業のMerkleとハワード大学のパートナーシップを通じて提供されたプログラムなどが代表的な例です。

ロックダウンが続き、学習機会が阻害される中、オンラインを通じた支援が必要とされていました。その状況に対して、私たちはイギリスのMyKindaFutureとタッグを組み、リモート学習プラットフォーム「Connectr」上で、The Codeのカリキュラムを世界中の若い世代に対して提供しました。同プログラムには、10の基本モジュールに加えて、電通グループに在籍する各分野のエキスパートがボランティアによって制作した、倫理、ソーシャルメディア(SNS)、食品ロスに関する3つのモジュールが実装されています。