電通インターナショナル

成長軌道への回帰

(株)電通グループ 取締役執行役員
電通インターナショナル社 グローバルCEO

ウェンディ・クラーク

変革による成長の加速

電通インターナショナル(DI)は2021年度に、9.7%というオーガニック成長を果たし、すべての地域とサービスラインを含む事業全体で成長軌道に回帰しました。高度なデータ分析によって支えられるカスタマーエクスペリエンス実現のために投資を継続する顧客企業と、世界で最も統合されたアド・エージェンシー・ネットワークになるという私たちの大胆なビジョンが共鳴した結果といえます。

メディアやクリエイティブのサービスラインは今後も順調に成長していくものと予想されます。加えて、カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)が構造的にも成長することによって、DIの事業モデルも「エージェンシー」と「コンサルティング」のハイブリッドへと変革が進み、他社とは一線を画した提案を顧客企業に対してできるようになるでしょう。顧客企業のファーストパーティデータ活用における私たちの強みは、IDデータの照合、データマネジメント、マーケティングテクノロジー、データサイエンス、ロイヤルティ、CRM、パーソナライゼーションに限らず、メディアやクリエイティブのサービスとも結びつき、変化する競争環境の中で、他社との違いを鮮明にしてきました。DIは、CT&T領域を電通グループの売上総利益の50%に引き上げるという目標に向け、顧客企業のために、統合されたカスタマーエクスペリエンスを高い次元で実現するリーディングカンパニーとなることを目指しています。

計画を前倒しし、オペレーティング・マージンの目標を達成

DIの売上総利益は2021年度に成長軌道に戻りましたが、それだけではなく、オペレーティング・マージンも2016年以来の高水準に大きく回復しました。オペレーティング・マージンを2022年度までに15%以上に回復させる、という目標に向けて取り組んできましたが、それを計画よりも1年早い2021年度に達成しただけでなく、目標値を90 bpsも上回ることができました。また、調整後営業利益も前年比+33.8%と、大幅に回復しました。

DIはこの2年間で、顧客企業のニーズや期待に応えられるよう、組織を徹底的に合理化し、事業全体のコスト構造を再構築しました。ネットワーク内のエージェンシー・ブランド数の最適化については計画の58%を実現しました。2022年度末までに88%を達成する予定です。また、ネットワーク内の法人数を減らし、在宅と出社を組み合わせる新しい働き方を導入したことで賃貸不動産の専有面積を大幅に削減しました。

私たちは、引き続きニアショア・オフショアの活用推進に投資することで、長期的に、さらなるオペレーティング・マージンの改善を目指しています。顧客企業へのサービス提供コストを軽減し、テクノロジーに投資することによって事業全体の効率を高め、グローバルにシェアードサービスやサービスプラットフォームの利用を増やしていきます。

電通インターナショナル オペレーティング・マージン
(2016年度~2021年度)
電通インターナショナル オペレーティング・マージン(2016年度~2021年度)

今後の成長に向けた投資

DIはCT&T領域に焦点を当ててM&Aに取り組んでいます。特に、構造的な成長が見込まれるコマースやデジタルトランスフォーメーションなどの急成長領域に注力しています。 M&Aを通じてケイパビリティを高め、Salesforce、Adobe、Googleなどの主要なテクノロジー企業のリード・エージェンシー・パートナーとしての地位をさらに強固なものにすることで、競合他社との競争力の差を広げます。

2021年度第3四半期には、LiveAreaとその600人の従業員が、DIにおけるCT&T領域のけん引役であるMerkleに加わりました。LiveAreaは、Merkleのカスタマーエクスペリエンスとコマース領域のケイパビリティを高め、世界中の顧客企業にとって、頼れるパートナーとしてのエージェンシー・ブランドの信頼をさらに強化しています。

人財への投資

2021年度も新型コロナウイルス感染症拡大の影響が続いたため、オフィスに集えない従業員たちとの関わり方や、インクルーシブな企業文化の育成とダイバーシティに対するサポートを強化する新たな方法を見つける必要性が浮き彫りになりました。しかし、私たちの迅速な対応が奏功し、2021年度の従業員エンゲージメント調査のスコアは過去最高レベルを記録しました。

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンなどの問題にも引き続き取り組んでおり、この業界で初めて、2030年までに管理職の50%を女性にするというジェンダー平等に対する目標を設定しました。また、2022年初めには、LGBTQ+に関する私たちのインクルーシブな職場づくりが、StonewallとHuman Rights Campaign Foundationの両機関から高い評価を獲得しました。グローバルCEOとしての私の優先事項のひとつは、DIを、最高の人財が働きたいと考え、働き続けてくれる職場にすることです。そのために、2021年度には、高い成長の可能性を持つ従業員を対象とした、数多くの能力開発・コーチングプログラムの考案と実施に、過去最大の投資を行いました。

また、DIの執行役員に以下の4名を新たに迎えました。MerkleとCXMサービスラインのCEOであるMichael Komasinski(マイケル・コママジンスキー)、クリエイティブサービスラインの変革を推進するFred Levron(フレッド・レブロン)、グローバル・チーフ・オペレーティング・オフィサーであり、デジタルおよびビジネストランスフォーメーションの分野で20年にわたってリーダーとしての経験を積んできたNnenna Ilomechina(ネナ・イーロマチーナ)、そして、グローバル・ジェネラル・カウンセルのAlison Zoellner(アリソン・ゾルナー)です。この布陣によって、DIの執行役員チームはさらに強力になりました。

DIにおける2030サステナビリティ戦略

2021年度の戦略発表から1年後、DIはネットゼロ/脱炭素化の目標設定を一から見直し、2040年度までにCO2排出量を90%削減するという新たな目標を定めるなどの重要な決断を下しました。世界に先駆けてSBTイニシアチブ(SBTi)からネット・ゼロ目標の承認を受けた企業のひとつになりました。

私自身は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に出席する素晴らしい機会に恵まれました。この会議において、気候関連目標を達成できるかどうかは、今までと異なる消費行動を促し、「グリーン・マーケット」を生み出せるかどうかにかかっている、という電通グループの考えを伝えることができました。そして、メディアに関わる世界最大のエージェンシーのひとつとして、私たちはそれを実行するのにふさわしい立場にあると確信しています。

そういった考えからも、私は、顧客企業が大胆で新たな取り組みへと移行するのを手助けする今の仕事に大きなやりがいを感じています。たとえば、当社は顧客企業のIKEAと協力して、所有者が中古のIKEA製の家具をIKEAに売り戻せるようにする、オンラインプラットフォームを作りました。生活者が、環境問題を意識した消費行動を選びやすくなった象徴的な事例です。

電通インターナショナルのサステナビリティに対する取り組みと評価
電通インターナショナルのサステナビリティに対する取り組みと評価

今後の展望

DIは2021年度に成長軌道に回帰しました。事業を変革し、コスト基盤を削減し、オペレーティング・マージンの改善を実現しました。これは、従業員全員の献身的な努力の証です。2022年度には、競争優位性、魅力的なサービス、そして45,000人の有能な人財を活用し、DIと電通グループ全体にわたってさらに多くの価値を生み出せるものと期待しています。

今日、企業にとっての最大の商機は、カスタマーエクスペリエンスの変革にあります。私たちが属する業界における今後の成長の源泉も、データ、クリエイティビティと融合したテクノロジー、そして顧客企業の事業成長を実現するためのイノベーションにあると考えています。

電通インターナショナル社
メディア&グローバルクライアント
グローバルCEO

ピーター・ハイブーン

メディアの力で、世界のメガブランドをさらに羽ばたかせる

電通インターナショナルのメディアサービスラインは、数々の賞に輝くCaratやiProspect、dentsu Xなどのグローバルエージェンシーを擁し、統合メディアプランニングやメディアバイイングサービスを提供しています。精度の高いパフォーマンスアド、データとテクノロジーを活用したブランド構築、コンテンツやストーリー開発が私たちの強みです。

生活者のブランド体験や、どの製品・ブランドを購入するかの意思決定も、デジタルの場で行われることが普通になってきました。複雑かつ拡張し続けるこの環境の中、私たちのグローバルエージェンシーは、イノベーションを継続することで顧客企業をサポートすると共に、未来を視野に入れた活動も開始しています。そのひとつが、2021年に発表した「The Rise of Sustainable Media(サステナブル・メディアの台頭)」というグローバル調査です。この中で、気候変動への対策としての低・脱炭素広告に対する生活者の意識と産業界の責任を検証しています。

2021年度には前年度に続いて、CaratがForrester Waveにおいて業界のリーダーと認定され、dentsu Xも3年連続でRECMAにより「世界で最も急成長をとげたメディアエージェンシー」に選出されました。加えて、iProspectが電通グループ内のVizeumを統合し、フルサービスのグローバルメディアエージェンシーへと進化しました。ケリングやLinkedIn、フェレロ、マニュライフ生命などの新規グローバルビジネスの獲得も果たし、名実ともに躍進の年になりました。

2022年度も、成果にコミットし、新規・既存顧客企業との関係を強化することで、成長をより一層加速させていきます。顧客企業からのニーズが、高解像度な生活者の分析からインサイト獲得まで、またはアドレサビリティの追求からアテンション向上まで、と今まで以上に高まり、また変化し続ける中、競争力の高いサービス、プラットフォームを提供し続けることが競合優位性となります。さらに、私たち自身のだけでなく、顧客企業のブランドプロポジションにも、社会的影響への配慮を継続して組み込んでいくことも重要になると考えています。責任あるメディアのエコシステムを推進し、顧客企業のメディアを通じたネットゼロエミッションの実現に貢献していきます。

電通インターナショナル社
グローバル・チーフ・クリエイティブ・
オフィサー

フレッド・レブロン

究極のコラボレーションと究極のシンプリシティ

2021年度は、究極のコラボレーションとシンプリシティを追求し、自社のブランドポートフォリオの合理化を進め、提供サービスの質を高めてきました。米国での受賞数が過去最多となるなど、クリエイティブサービスラインにとって飛躍の年でもありました。また、スパイクスアジア2021でネットワーク・オブ・ザ・イヤーを受賞し、カンヌライオンズ2022では、前年の業績が評価され、3つのグランプリとエージェンシー・オブ・ザ・イヤーを獲得しました。Fast Companyから「The best places to work for Innovators」にも選ばれました。

何よりも重視するのは、才能ある従業員の育成と多様性あるインクルーシブなチームづくりに努力を惜しまず、本当の意味で現代社会を映しだす仕事をすることです。私たちは、AIを活用したコンテンツ制作プラットフォーム「Content Symphony(アドビ社公認システム)」や顧客企業の様々なニーズに合わせて電通グループの人財を繋ぎ、アイデアをスケール、カスタマイズするチーム構築モデル「Dentsu on Demand」などのソリューションの開発に注力しています。

「モダンクリエイティビティ」の力

今まで以上のイノベーションの加速、シンプリシティの追求、クリエイティビティの強化を推し進める中で、クリエイティブサービスラインにとって唯一のグローバルエージェンシーネットワーク「Dentsu Creative」の誕生を発表しました。また、クリエイティビティの定義も一新しました。視点を垂直方向から水平方向へ移すことで、サービスライン全体がより高品質かつ革新的なアウトプットを生み出すことを目指しています。「モダンクリエイティビティ」は、文化を生み出し、人々の行動と社会に変化をもたらすことで未来を創造する力です。その力を私たちが従来から持っているコアケイパビリティと共に活用することで、エンタテインメントプラットフォームやコンテンツIP(知的財産)、バーチャルインフルエンサー、ゲーミング、ライブコマースといった領域の新境地を開拓していきます。

私たちは、今と未来をつなぎ、ブランドや企業、社会をより良いものへと変革していきます。

電通インターナショナル社
Merkle/CXM
グローバルCEO & アメリカズ
プレジデント

マイケル・コマジンスキー

現代の生活者のニーズや期待値は、10年前とは一変しています。ここ数年の間に、大規模なデジタルシフトが起こり、ブランドも生活者もデジタルをさらに使いこなすようになりました。データやプラットフォームの数が増大し、個人情報を取り巻く規制は厳しくなり、社会の価値基準も変化し続けています。このような状況下で、マーケティングのトランスフォーメーションも加速の一途をたどっています。

このような時代にブランドが大きな成功を収めるには、データとテクノロジーを活用して、生活者にとって高度にパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を提供することが不可欠です。データが導き出すナレッジやインサイトが、精密にターゲティングされた生活者がブランドと接する瞬間(ブランドモーメント)の基盤となります。複数のコンタクトポイントにおけるブランドモーメントの蓄積が顧客体験となり、やがてブランドと生活者の関係を長期的に構築するロイヤリティの醸成やファン育成へとつながっていきます。

MerkleはCXMサービスラインならびに電通インターナショナルの、最大にしていまだ急成長中の中核ブランドであり、2023年度には収益が20億ドル規模に達する見込みです。Merkleは、顧客企業が生活者中心主義を再確認することを提案すると共に、企業の提供価値をベースにした生活者との長期的な関係を構築できる組織づくりをサポートします。

Merkleは、長年培ってきたデータやアナリティクス、テクノロジーなどに関する深い知見をベースに、顧客企業に価値を提供しています。多様なエンドツーエンドのソリューションを通してカスタマーエクスペリエンスの変革を醸成できることが、最大の差別化のポイントです。同社の事業は、顧客体験トランスフォーメーションとテクノロジーコンサルティングからスタートしました。そして、そこから導き出された戦略を、世界基準のメディアサービス、デジタルエクスペリエンス、コマース、CRM、ロイヤリティ、クラウドソリューション、データ管理、データソリューション、データサイエンス(AIならびに機械学習)を活用することで実行に移します。実行力を強化するのが、Google、Adobe、Salesforce、AWSをはじめとする多くのパートナーとの連携です。彼らとの連携を通じて、エンタープライズエクスペリエンスやクラウドサービスの成長を図り、マーケティングファネルを網羅するブランド体験プラットフォームの実現に努めています。

Merkleの勝利の方程式は、データトランスフォーメーション+デジタルトランスフォーメーション=カスタマーエクスペリエンストランスフォーメーションであり、以下の3領域を中心とした戦略を提案しています。

  • データトランスフォーメーション:プライバシー保護を担保した上でデータを取得・管理・分析し、顧客体験をリアルタイムで把握するための価値あるデータとして有効化することを指します。その第一歩は、マーケティング、セールス、コマース、サービスのすべてにまたがって顧客企業が管理するファーストパーティーデータを活用することで見えてくる、全方位的な顧客や生活者の理解であると考えています。
  • デジタルトランスフォーメーション:顧客企業や生活者中心のビジネスを組織し、変化を続ける市場環境や顧客企業のニーズへの対応を可能にするシステムに刷新することを指します。顧客体験、更には強固な関係構築につながっていく、個別、また状況に応じたブランドモーメントの提供を可能にします。
  • 顧客体験コンサルティング:顧客企業がカスタマーエクスペリエンストランスフォーメーションを進めるにあたり、そのビジョンを策定する戦略的コンサルティングサービスを指します。顧客企業のパートナーとして、事業に即した顧客体験の枠組みづくりと、その提供に際して不可欠な組織的・技術的要素のコンサルティングを行います。

Merkleが行った最近の調査で、生活者の65%が、高度にパーソナライズした、わかりやすくスムーズなコミュニケーションをしてくれるブランドの製品を購入したいと回答しました。ただし、それが実現されていると考える回答は14%にとどまりました。これは、今後5~10年間にしかるべきリソースを投下してカスタマーエクスペリエンスマネジメントを強化しようと考えるブランドにとって、大きな機会があることを意味します。

CXMサービスラインでは、この機会を最大限に活用していただけるよう、新たな手法の開発を続けています。私たちはテクノロジーをベースにしたカスタマージャーニーのマーケットリーダーとして、収益、コスト削減、差別化、ひいては株主の利益に直結した成果に貢献することで、CEOをはじめとした顧客企業の経営陣の皆さまに必要とされるサービスを提供します。