CEOメッセージ

電通グループの企業価値最大化へ
~顧客企業との仕事を通じて、社会課題をともに解決し、
中長期的に価値を生み出す「B2B2S企業」への進化を~

(株)電通グループ 代表取締役 社長執行役員 CEO

五十嵐 博

「B2B2S企業への進化」に向けて

今年度より、株式会社電通グループの代表取締役社長執行役員CEOに就任しました五十嵐博です。1984年の株式会社電通入社以来、38年間、営業部門を中心に、常に顧客企業に向き合う仕事をしてまいりました。

振り返ると、顧客企業が未来の社会に提供すべき価値を、生活者視点で考え続けてきたように思います。生活者視点に立ち、本質的な課題への取り組みを提案することで、様々な壁や摩擦も経験しましたが、提案したソリューションが実現して社会や生活者が動いた時の達成感は忘れられません。

顧客企業の事業課題の先にある社会課題を見据え、その課題に徹底的に向き合い、解決策を提案し実施するのが電通の仕事の醍醐味だと思います。それは、まだ誰も見たことのない未来における顧客企業の社会的価値を見出し、それを現実のものにするということであり、“an invitation to the never before.”の精神そのものです。顧客企業の事業課題はもちろん、その先にある社会課題にまで向き合うこと。B2Bのさらにその先のS、つまりソサイエティと向き合う、Business to Business to Society。略してB2B2S。これが電通グループの経営方針です。

最近の事例をいくつかご紹介します。1つめは、食品ロスという社会課題の解決に向けた取り組み、世界初のAI搭載レシピツール「Chefbot」です。レシピの提案を通じて、ご家庭にある食材を無駄なく活用することを可能にするもので、米国の大手流通顧客企業と提携して開発しました。2つめは、日本初のサッカースタジアムを拠点とした地域食品循環型システムの実証実験です。北九州市の企業と自治体などと連携し、スタジアムで利用する生分解性樹脂を使用した紙コップと食品残渣を地域で堆肥化し、その堆肥で野菜を栽培、スタジアムで提供するなど、コレクティブインパクトの実践を始めています。3つめは、電通インターナショナル(DI)、電通ジャパンネットワーク(DJN)の横断型ソリューションサービスとして始動する「Dentsu Good - a sustainability accelerator」です。社会への貢献を通じた事業成長を実現するビジネス・アクセラレーターとして位置付けています。

マーケティングは「コミュニティ」デザインへ

自社調査によれば、Z世代の83%が『企業は社会的課題に取り組むべき』と回答し、改めて企業の存在意義が問われています。SDGsに象徴される持続的な社会を再構築する機運は引き続き高まり、人々の共感を集めるパーパスを掲げる企業がリーダーシップをとる時代がやってきています。生活者の企業への視線はより厳しくなり、より良い未来のためのパーパスを規定できるかどうかが、企業の生命線になってくると考えています。

自社のパーパスを人々に浸透させる方法として、従来のマーケティングはクリエイティビティに基づく「コミュニティ」デザインに進化すべきであり、電通グループの役割もそこにあると考えています。ここでいう「コミュニティ」とは、地域社会など近接した人々の集まりという意味ではなく、企業や自治体、生活者も含めた、一つのパーパスに共鳴する者同士のつながりを指します。パーパスに賛同する人々は、未来をより良い方向へ動かす原動力となります。求心力のあるパーパスを再規定する想像力、リアリティのある構想力、そうしたクリエイティビティこそが「コミュニティ」デザインの要です。これはクリエイティビティを力にグローバルに展開してきた電通グループにとって、人々や社会の動きに影響を及ぼすことができるユニークな機会であると考えています。

未来に向けたケイパビリティ

生活者が24時間、IoT(Internet of Things)を含むデジタルデバイスにつながることが当たり前になってきました。「コミュニティ」デザインを実行するには、データとテクノロジーによる最適な生活者体験の設計が不可欠です。私たちは、新たに必要となる、データとテクノロジーに由来するケイパビリティを、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」と名付け、2024年までの中期経営計画でも主要な投資領域と位置付けています。この分野は私たちが最も速く成長できる分野であり、景況に左右されにくい分野でもあり、今後数年間、グループにとって最も大きな可能性を秘めた分野だと考えています。

カスタマートランスフォーメーション&テクノロジーの売上総利益構成比
カスタマートランスフォーメーション&テクノロジーの売上総利益構成比

このように、電通グループのケイパビリティは伝統的な広告、マーケティング・コミュニケーションの領域を超えて多種多様に広がっています。一方で、顧客企業にとってより重要な、大局的な視点に立つと、局地的な課題解決に一つ一つ取り組むのではなく、複数のソリューションを有機的に統合する必要があります。このサービス提供体制を「インテグレーテッド・グロース・ソリューション」と呼称し、競合との差別化を図ってきました。

電通グループの人財

社会と顧客企業の課題と向き合い解決する当社グループの人財は、今や65,000人、約145の国と地域で活動しています。電通グループに集まる人財は、クリエイティビティで社会に新しい価値を創り出したいという人ばかりです。これからも、そういった人財に多く集まってほしいと考えています。

複雑化する社会課題に対しては、均質的な個々が向き合っても、現状を打破するクリエイティビティは得られませんし、コミュニティを生み出すこともできません。個々人の専門性を持ち寄り、自由と責任をもって自律的にコラボレーションをすることが、“an invitation to the never before.”につながります。

私自身がそうでしたが、多様なバックグラウンドをもつ仲間と志を一つに仕事をしたことで、成長とやりがいを感じることができました。企業の社会的貢献に対する要請の高まりを鑑みるに、自身の仕事が社会に貢献できていると実感できることが、電通グループに対するエンゲージメントを高める要素になると思えます。志を持つ優秀な人財に選ばれる企業であるためには、顧客企業と生活者のコミュニティづくりを通じて社会的な価値を生み出す電通グループであり続けること、同時に、そうした人財が成長を実感し、最大限の価値を発揮できる環境を整えることが必要な条件だと考えています。

持続的成長に向けて進む事業変革

2021年度は、中期経営計画に基づいた非事業資産の売却、組織の合理化などを実行したことで、売上総利益、営業利益、および調整後営業利益は過去最高を記録し、「構造改革」は大きな成果を得ました。これからは、持続的成長に向けた事業変革のフェーズに入ります。カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー領域のケイパビリティ獲得を主な目的とし、2,500~3,000億円のM&A原資も準備しています。

また、社会課題に向き合うB2B2S企業であるために、電通グループ自身の経営基盤も持続可能な成長を目指したものである必要があります。

2021年に設置したサステナブル・ビジネス・ボードは、電通グループのサステナビリティに対する取り組みと事業成長戦略を経営陣が率先して推進するための会議体です。「2030サステナビリティ戦略」を土台として、気候変動やダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)などに関連する様々な社会課題に電通グループとして取り組む一方、顧客企業が向き合う社会課題に対するソリューションの開発にも注力しています。またDJNでは、この分野における当社グループのコミュニケーションの知見とネットワークを活かし、コミュニケーションを行う際に抑えるべきポイントをまとめた「サステナビリティコミュニケーションガイド」を有識者と共に策定し、無償で公開しています。

さらに、「2030サステナビリティ戦略」の実効性を、ガバナンスを通じて担保するために、経営幹部の報酬には従業員エンゲージメントスコア、CO2削減目標の達成度、女性管理職比率を含む非財務指標を反映することとしました。また、DJNではチーフ・ダイバーシティ・オフィサー、DIではチーフ・エクイティ・オフィサーを新設し、DE&Iの推進と社員エンゲージメントの向上を推進する体制を整えました。

2022年3月に発足した新経営体制では、取締役の女性比率を上げ、経営の監督と執行を異なる人物が行うことで取締役会の監督機能の強化を図りました。また、独立社外取締役にグローバル企業経営、デジタル領域、財務・会計・監査などに精通した4名を迎え入れたことで、事業変革のためのより活発な議論が既に始まっています。

そのような経営幹部たちと従業員たちと一緒に、これまで事業で培ってきた力を役立て、株主、顧客企業、パートナー企業、従業員、生活者、社会といったすべてのステークホルダーにとって電通グループの企業価値を最大化していくことが、私のミッションだと考えています。