CFOメッセージ

曽我 有信

成長軌道への回帰を示す過去最高業績の2021年度

戦略的資本配分による事業変革と持続的な成長を通じて、
企業価値の最大化を目指します

株式会社電通グループ
代表取締役副社長執行役員 CFO

曽我 有信

包括的な見直し

電通グループは2020年度から構造改革と事業変革に着手し、2021年度はこの取り組みが様々な形で実を結びました。

顧客企業に対して、的確にサービスを提供できる体制を整備するべく、組織をよりシンプルな構造に、働く環境もより合理的な形に見直しました。またバランスシートの健全化と株主還元施策の改善にも着手しました。

当社グループのこれら取り組みの成果を、ステークホルダーの皆様には実感いただけていると思います。

成長軌道への回帰

電通グループの2021年度業績は、過去最高の売上総利益、営業利益および調整後営業利益となりました。1株当たり配当金117.5円も過去最高で、「成長軌道」に回帰することができたと認識しています。

売上総利益は、コロナ禍前の2019年度水準を上回りました。これは、広告事業の回復と、当社グループが構造的な成長を期待する「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー(CT&T)領域」の伸長によるものです。事業環境が激変する中で、当社グループが顧客企業の成長に資するサービスを提供できている証左と捉えています。

日本事業(電通ジャパンネットワーク)業績

日本事業を担う電通ジャパンネットワークは、2021年度にグループ連結売上総利益の43%を創出し、オーガニック成長率は17.9%でした。

好業績の理由としては、広告市況の回復が想定を上回る水準で推移したことが挙げられます。特にテレビ広告とインターネット広告、そしてCT&T領域が好調でした。コロナ禍関連の規制が一部軽減されたことを背景に、顧客企業が生活者心理の改善を見越してマーケティング投資を増やしたことが要因です。

インターネット広告は、当社グループにとって強力な成長ドライバーです。2021年10月に、当社はセプテーニ・ホールディングスへの出資比率を52%に引き上げ、連結子会社化することを発表しました。この統合によって、当社グループは国内インターネット広告でトップの市場シェアとなり、業界のリーダー的地位を固めることができました。

CT&T領域は、当社事業領域の中で、極めて高い成長率が期待できる領域です。同領域を牽引する電通デジタルの2021年度オーガニック成長率は30%を超え、その結果、国内のCT&T領域の売上総利益構成比は24.4%に達しました。当社グループは、今後も高成長が見込まれるCT&T領域の強化を進め、事業の柱に育てていきます。

海外事業(電通インターナショナル)業績

海外事業を担う電通インターナショナルは、2021年度にグループ連結売上総利益の57%を創出し、オーガニック成長率は9.7%でした。以下、地域別に業績をお伝えします。

米州地域は、売上総利益の25%を占め、日本に次ぐ規模を有しています。同地域のオーガニック成長率は10.6%と2桁増で、米国とカナダが牽引しました。

欧州・中東・アフリカ地域は、売上総利益の22%を占め、オーガニック成長率は11.1%でした。特に欧州が好調で、5カ国で2桁の成長率を記録しました。

日本を除くアジア太平洋地域は、売上総利益の10%を占め、オーガニック成長率は4.7%でした。シンガポール、インドネシア、オーストラリアが好調だった一方で、中国とインドが不調で一部相殺した結果です。

CT&T領域の構成比は、2021年度に32.6%に達しました。顧客企業にとって、データとテクノロジーを用いて生活者の顧客体験を強化することが、喫緊の課題となっていることが背景にあります。さらに顧客企業が、幅広いケイパビリティを統合した課題解決力を求めていることに対応し、当社グループがサービスの統合に一層注力したことで、多くの主要マーケットにおいて成長を遂げることができました。

マージンの伸長

電通グループの2021年度営業利益および調整後営業利益は過去最高の値です。KPIとしている調整後営業利益は、前年比44.4%の増益で、オペレーティング・マージンも340 bpsという大幅な改善を達成しました。これは、前述の売上総利益の伸長とコスト構造の改善が寄与した結果です。

コスト面では、組織内の重複排除や効率化を断行し、コストベースの大幅削減を実現しました。特に、コロナ禍でリモートワークをはじめとする柔軟な働き方が可能になったことで、都心部を中心に不動産コストを削減しています。

なお、電通ジャパンネットワークのオペレーティング・マージンは22.9%(前年比490 bps増)で、調整後営業利益は前年比52.0%増加しました。電通インターナショナルのオペレーティング・マージンは15.9%(前年同期比220 bps増、為替影響排除ベースで230 bps増)で、調整後営業利益は前年同期比33.8%増(為替影響排除ベースでは28.4%増)となりました。

電通グループ 2021年度ハイライト

バランスシートの再構築

当社グループは、バランスシートについても変革を進めています。2021年度には電通本社ビルのセール&リースバックを実行したほか、日本国内不動産を2件売却し、政策保有株式約210億円の売却をしました。

これら取り組みによって当社グループは、2021年度をプラスのネットキャッシュ・ポジションで終えています。そして、この資金を、この後に述べる資本配分方針に従って成長投資や株主還元に充当する計画です。

なお、中期的なKPIとして、純有利子負債/調整後EBITDA倍率を1.0~1.5倍のレンジ内で管理していきます。

健全で柔軟なバランスシート

株主価値の創出

長期にわたって株主価値を高めることは、経営陣にとって重要な課題です。当社グループは、自己株式取得を、2021年には300億円規模で実施し、2022年にも上限400億円規模で実施予定です。

中期経営計画の最終年となる2024年度までに、配当性向35%を達成する漸進的な配当方針に沿って、2022年度の配当性向は32%、1株当たり年間配当金は過去最高の130円を予定しています。

株主還元:配当と自己株式取得

戦略的資本配分

当社グループの事業変革と持続的な成長に向けた今後3年間の資本配分方針についてお伝えします。

設備投資額は、現在と同水準の約700億円を確保します。

M&A資金は、グループ合わせて3年間で2,500~3,000億円を予定します。この資金をCT&T領域に重点的に投資し、買収とオーガニック成長の両輪をまわすことで、CT&T領域の売上総利益構成比を50%にすることを今後数年間の目標にしています。

当社グループがCT&T領域を強化する目的は、成長モメンタムの獲得と、当社グループの強みである統合サービスのさらなる強化です。その結果、CT&T領域の特徴であるリカーリングビジネスがもたらす継続性の高い収益が増えることによって、景況に左右されにくい、安定した事業基盤を構築していく考えです。

資本配分:成長を重視し、長期的な価値向上を図る

規律あるM&A戦略

当社グループのM&Aは、優先マーケットにおいて、買収条件の規律を保ち、件数を厳選して、比較的規模の大きい案件に焦点を当てる方針です。当社グループは、2016年度にMerkleを買収し、データ&アナリティクス分野でいち早くスケールを獲得しており、案件を厳選しながらM&A戦略を推進できる状況にあります。

過去5年間のM&A案件の利益率についても、当社グループの資本コストを超えるROICを達成しました。これはM&A委員会をはじめとする社内承認プロセスが有効に機能し、かつ買収後の統合を適切に実行した結果と考えています。

M&Aは効率化の面でも貢献しています。日本ではセプテーニ・ホールディングス、海外ではウガム、パラゴン、ソクラティが持つニアショア・オフショア拠点のオペレーションを活用してコストを抑えることで、オペレーティング・マージンの改善につながっています。

コマース分野のケイパビリティ拡充

当社グループは、2021年7月にLiveAreaの買収を発表しました。同事業は米国に本拠地を置き、米国で主要な顧客基盤を有する一方、欧州・中東・アフリカ地域でもプレゼンスを築いており、インドとブルガリアには大規模なオフショア拠点を有しています。また収益の半分以上を継続性の高いリカーリングビジネスが占めている点が特徴です。

この買収により、世界レベルでコマース分野のケイパビリティを強化することができました。今後も顧客企業に価値あるサービスを提供するべく実績を重ねてまいります。

また、この買収で、当社グループは「Salesforce Commerce Cloud」のセールスにおいて、広告業界でNo.1パートナーとなりました。これは当社グループの「エージェンシー」と「コンサルティング」のハイブリッドモデルを実証する1つの成果と考えています。

デジタル・マーケティングのさらなる進化

電通ジャパンネットワークのM&Aとしては、前述の通り、2021年度にセプテーニ・ホールディングスの連結子会社化を発表しています。この結果、急成長を続けるインターネット広告市場での専門性とスケールを強化することができました。

電通ジャパンネットワークは引き続き、デジタル・マーケティングにおける日本最大かつ最先端の存在となるべく取り組みを進めます。

「人財」投資の強化

当社グループを支える最大の資産は「人財」です。事業変革および持続的な成長を成し遂げるために、リスキリングをはじめとする育成にこれまで以上に注力し、専門人財の採用も進めることで成長力強化に努めます。また人財獲得競争力を高めるために、当社グループのブランド再構築と従業員エンゲージメントの向上を目的とした投資も行う考えです。

2022年度の見通し

当社グループの2022年度業績は、インターネット広告やCT&T領域の成長などにより、オーガニック成長率4~5%と想定しています。これを踏まえて、中期経営計画最終年度目標のオーガニック成長率を3~4%から4~5%に、オペレーティング・マージンを17.0%から18.0%にアップグレードしました。

CFOの務めを果たし、企業価値の最大化へ

電通グループは、構造改革を通じて成長投資を行う準備が整った状況にあります。顧客企業や社会の動向を常に注視しながら、中期経営計画における次の段階へ、そしてその先に当社グループが目指す「B2B2S企業」へ進化を果たすべく邁進します。

2021年度には、当社グループとして世界中の株主や投資家をはじめとする市場の皆様と、延べ450回を超す対話の機会を持たせていただきました。2022年度も引き続き、皆様と積極的に対話させていただき、頂戴するご意見を当社グループの経営に生かしたいと考えています。

世界の情勢は常に変化し、その変化のスピードはさらに速くなっています。私はCFOとして、財務健全性を維持しながら、成長を支えるM&Aや人財などへの戦略的かつ最適な資本配分を追求します。そして、事業変革と持続的な成長を実現し、当社グループのステークホルダーの皆様にとっての「企業価値の最大化」を目指していきます。