マネジメントメッセージ
CFOメッセージ
構造改革と事業変革
取締役執行役員
曽我 有信
2020年度概況
2020年度を振り返ると社会、クライアント、そして当社にとって厳しい1年でした。コロナ禍の拡大によって世界各地で多くの行動が制限され、世界経済が減速する中、広告費やマーケティング費にも大きな影響が及びました。
コロナ禍の影響が出始めたのは2020年度第1四半期で、その後第2四半期に当社グループの業績は最も大きく落ち込みました。以降ゆるやかに改善したものの、売上総利益のオーガニック成長率は前期比−11.1%となりました。国内事業は同−8.4%、海外事業は同−13.0%でした。
日本では、コロナ禍の影響で短期間のうちに社会のデジタルシフトが進みました。クライアントの広告費は減少しましたが、デジタルトランスフォーメーション領域のニーズは非常に強く、この領域に強みを持つ電通国際情報サービス(ISID)と電通デジタルはどちらも二桁以上のオーガニック成長を遂げました。2021年度も引き続きこの領域は当社グループの成長を牽引するでしょう。
海外事業もまたコロナ禍の影響を受け、メディア事業、クリエーティブ事業は低調のまま推移しました。しかしCXMサービスラインはパンデミックのマイナス影響が少なく、前期比-3.2%に踏みとどまりました。主要ブランドであるマークルにおいてはわずか-1%と前年並みを維持しました。クライアントが1stパーティデータをeコマースやD2C戦略に組み込むようになっているため、CXMサービスラインに対するニーズはますます高まっており、2021年度には同サービスラインの収益が回復する見込みです。
また、パフォーマンスメディア事業も、2020年度終盤は好調でした。これは生活者個人に最適化したマーケティング活動にクライアントが大きくシフトしていることに起因しています。2021年度もこの傾向は継続するでしょう。
2020年度 売上総利益構成比とオーガニック成長率(地域別)
迅速なコストコントロール
第1四半期にはコロナ禍による収益減少を緩和するためコスト対応策を迅速に実行しました。例えば取引先との契約内容の見直し、オペレーションの効率改善、またM&A活動の一時停止による当該関連支出の抑制などがそれにあたります。
国内ではリモートワーク下のみなし労働時間制の適用、海外では一時帰休による労働時間の抑制などによって人件費を適切にコントロールしました。
こうした措置により2020年度のオペレーティング・マージンは14.8%となり前年度並みの水準を維持しました。
しかし中長期的に当社グループを成長軌道に戻しマージン(利益率)を改善するためには、構造的なコスト削減に取り組む必要があると認識しました。
包括的な見直し
2020年8月、当社グループは「包括的な事業オペレーションと資本効率に関する見直し」により構造改革と事業変革に取り組むことを発表しました。この見直しは株主・従業員・クライアントにとっての「価値」を高めるための取り組みであり、以下の4項目に焦点を当てています。
- 合理的で機動的な組織構造
- 恒久的なオペレーティングコストの低減
- バランスシートの効率化の加速
- 1~3による長期的視点での株主価値の最大化
2020年度決算でも発表した通り、具体的な施策を次々と実行に移しています。包括的見直しの発表以降6カ月間でも、当社グループは大きな進歩を遂げました。しかしやるべきことはまだまだ残っています。今後も進捗状況を継続的にお知らせします。
1.合理的で機動的な組織構造
国内事業では、従来の事業領域を新たに4つの事業領域へと変革させます。グループ各社の機能を専門領域やシナジー創出の観点から分け直し、4つの事業領域が生み出す価値を高め、個社の力を最大化しながら国内事業全体としての競争力を強化することがその狙いです。
海外事業では昨年、160のブランドを6つのグローバルリーダーシップブランドへ統合する計画を発表しました。これによって組織内の機能重複や複雑さを解消し、合理的・効率的な組織を通じてサービスのクオリティを向上させることができます。
2.恒久的なオペレーティングコストの低減
国内事業における構造改革では人財戦略の見直しと不動産費用の削減によって2022年度から年間210億円のコストを削減する予定です。
また海外事業でも人員削減やその他の施策を実行することで同じく年間547億円以上のコスト削減を予定しています。
これらによって私たちは今後数年間の利益率を改善できると確信しています。2022年度までに国内事業では20%、海外事業では15%のオペレーティング・マージンを実現します。そして、2024年度までにグループ全体で17%の達成を目標としています。
3. バランスシートの効率化の加速
2020年11月、当社グループは、所有するリクルートホールディングスの株式の過半を売却することを発表し、12月に5,000万株を売却しました。政策保有株式の取り扱いについては今後も検討を続けていきます。
2021年には、更なる株主価値拡大に向けて非事業資産を見直した結果、日本に所有する2つの不動産を売却しました。また、東京汐留の本社ビルも売却に向けた検討を進めています。
4.1~3による長期的視点での株主価値の最大化
2020年度決算発表時に、長期的な株主価値の向上を企図して300億円を上限とした自己株式取得を発表しました。今後も⼤規模な資産売却が発⽣した場合は、様々な要因を総合的に勘案しながら追加的な株主還元を検討します。
2020年度の営業損失
包括的な見直しと事業構造改革に関する費用に加えてのれん減損損失を計上した結果、2020年度の営業損失は1,406億円となりました。
構造改革に伴って発生する費用は、2020年度は783億円、2021年度は約560億円を想定していますが、これにより2021年度には約500億円、2022年度からは年間約750億円のコスト削減を見込んでいます。
2020年度にはコロナ禍の世界経済への影響を考慮し、海外事業におけるのれんについて四半期毎に減損テストを実施しました。
その結果、第3四半期までは減損損失は不要と判断しましたが、期末にはコロナ禍の長期化により高まった事業環境の不透明感と今後の事業予測を基に、海外事業において1,403億円ののれん減損損失を認識しました。
堅調なバランスシート
2020年度末の当社グループ自己資本は充実しており、現金及び現金同等物が5,300億円と、強固なバランスシートを有しています。格付投資情報センター(R&I)による当社グループの格付はAA-を維持しました。
さらなる成長に向けたデジタル化への投資
コロナ禍の影響によって生活者の消費行動が大きく進化した結果、全てのクライアントにとってデジタル化とD2Cチャネルが最重要課題となりました。生活者にとって価値のあるブランド体験を生み出すために、クリエーティブな発想とデータの活用はどちらも欠かせません。
当社グループは事業のデジタル化を早期から推進しており、今やグループの連結売上総利益の53.9%をデジタル関連事業が占めるまでに成長しています。(2019年度は47.5%)
その結果、カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー領域は、2020年度の売上総利益の28%に達しました。マークル、ISID、電通デジタルといったリーディングブランドの売上総利益合計額の過去3年間のCAGRは20%を超えています。これは、データ・分析・テクノロジーを組み合わせてクライアントのニーズに応えるオーダーメイドのソリューションを提供できているからです。さらなる成長に向けたM&A投資を集中的に行うのは、まさにこの領域です。
中期経営計画
2021年2月に、当社グループの中期経営計画「構造改革と事業変革による持続的な成長の実現」を発表し、ステークホルダーの皆様に今後4年間の成長戦略のロードマップを示しました。
2022年度以降の成長回復とマージン改善を実現する上で、2021年度はそのための足場固めの年にあたります。
私たちは計画について4つの柱を掲げ、それに対してターゲットを設定しました。
中期経営計画のターゲット
1.事業変革と成長
- オーガニック成長率を2021年から2024年にかけてCAGR3-4%に。
- カスタマートランスフォーメーション&テクノロジーの売上総利益構成比を今後50%に高めることを目指す。
2.オペレーションとマージン
- オペレーティング・マージンを2021年から2024年にかけて漸進的に改善。2024年までに17%以上を達成
(2022年までにDJN:20%、DI:15%を達成)。
3.資本配分と株主還元基本方針
- 中期的なNet Debt/EBITDA倍率は1.5倍水準 (IFRS 16を控除)に。
- 基本的1株当たり調整後当期利益に対する配当性向を今後数年で35%まで漸進的に高める。
4.ソーシャルインパクトとESG
- 2030年度までに、CO2の排出量を46%削減、再生可能エネルギー使用率100%を達成。
- 従業員エンゲージメントスコアの向上。
- 従業員のダイバーシティ&インクルージョンの推進。
1.事業変革と成長
インテグレーテッド・グロース・ソリューションと電通サステナブル・ビジネス・ソリューションの継続的な展開を通じて成長を推進していきます。
2.オペレーションとマージン
当社グループの事業構造をシンプルにします。そうすることで、クライアントや従業員にとって利便性が高まるとともに、グループ内の重複が無くなりコスト削減も実現できます。
3.資本配分と株主還元基本方針
当社グループでは株主価値の向上のために、規律ある資本配分を方針としています。
バランスシートの健全性を保つために、中期的なNet Debt/EBITDA倍率は1.5倍水準を目安としています。
また新技術や製品イノベーションへの投資を通じたオーガニック成長だけでなく、M&Aを通じた成長にも投資していきます。今後数年間は、国内外において成長性の高いデータやデジタル関連事業にフォーカスする予定です。
そして、配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース)は今後数年で35%へと漸進的に引き上げる方針です。
4.ソーシャルインパクトとESG
ESGを意識した経営はもはや欠かすことのできないものになっています。当社グループは企業としての社会的責任を果たすだけでなく、事業を通じて社会への貢献を実現していきます。これを推進するために「サステナブル・ビジネス・ボード」を新設しさまざまな取り組みを推進していく計画です。
当社グループの計画の概要は他のセクションでご紹介しています。
今後を見据えて
厳しい事業環境は続きますが、我々はインテグレーテッド・グロース・ソリューションの提供に注力することでマーケティングの領域を超えてクライアントの事業成長に貢献していきます。ステークホルダーの皆様の価値を創出することで当社グループはさらに強くなれる、この難局を乗り越えていけると信じています。