変革のアーキテクト

「事業モデル変革タスクフォース」パートナー対談

電通ビジネスデザインスクエア

山原 新悟

味の素株式会社
代表取締役 取締役社長
最高経営責任者

西井 孝明氏

「2030年に『食と健康の課題解決企業』へ生まれ変わる」と宣言し、「事業モデル変革タスクフォース」を立ち上げてグループ全体の変革を推進されている味の素株式会社の西井孝明社長と、同タスクフォースのパートナーとして電通グループチームを率いる電通ビジネスデザインスクエアの山原新悟が対談。同社の変革のテーマや外部企業との協業、そして目指している未来像を聞きました。

重要な変革のテーマ

  • 山原

    味の素が進めている「事業モデル変革タスクフォース」では様々な施策を打ち出し、社長自らが「変革」の意志を発信されているのが印象的です。中でも、西井社長が重要視している変革のテーマをお聞かせいただけますでしょうか。

  • 西井

    我々が食と健康の課題解決企業に生まれ変わる、そして10億人のウェルネスに貢献できるようになるために、全社を挙げて取り組むべき重要なテーマが2つあります。
    まず1つは、「パーソナル栄養への取り組み」。これからの時代、個々の健康課題を解決するためには、生活者一人ひとりのライフスタイルに合ったソリューションを提供していく必要があります。
    もう1つは、「食資源」にまつわること。既存のたんぱく質がとれなくなるかもしれない、水の枯渇により食事そのものができなくなるかもしれないなど、「食資源」について考えることは非常に重要です。一方で食資源が無駄遣いされている現状も存在しています。フードロスを半減していくことも、持続可能な社会を実現するためには忘れてはいけない課題の1つです。
    しかし、これらの変革を行うにしても、我々の知識だけではソリューションは生まれないと考えていました。

「Picture of the Future」を止めてはいけない

  • 山原

    社内ベンチャー制度を立ち上げたり、スタートアップやベンチャーキャピタルとの協業を推進したり、と西井社長から「ベンチャー」という言葉をよく耳にします。変革を実現するためには、ベンチャーの精神をインストールする必要があるということでしょうか。

  • 西井

    はい。今回の変革で「ベンチャー」は、大切なキーワードの1つです。既存事業にとらわれず、新しい事業や新しい価値を創造していくためには欠かせない精神であると感じています。更に、社会や生活者に新しい価値を届けるためには、今やデジタルコミュニケーション抜きでは語れません。アーキテクチャを変えるという大きな目標を達成するには、ベンチャー的な考え方や、ベンチャー企業との協業が重要だと考えています。
    例えば、前述のパーソナル栄養の取り組み。我々は、食とアミノ酸という分野で優位なソリューションを持っていますが、それだけでは新しい価値は生まれません。人々の健康課題を「見える化」しようとしている人や、それが見えた暁に「こういうソリューションができそう!」とアイデアを持っている外部の企業と組んで、イノベーションを起こしていく必要があるのです。

  • 山原

    味の素とは全く別の領域だけど、面白いことを考えている人や企業が組み合わさって新しい価値が生まれる。それが動き始めると、事業構想実現の一歩になるかもしれませんね。

  • 西井

    例えば調理方法にイノベーションが起きて、調理もメニューもAIが考案するようになったら我々人間は何をすべきか考えなくてはいけないだろうし、お客さまにものをお届けする仕組みにイノベーションが起きれば、それに合わせて運びやすい、お届けしやすい商品を開発しなきゃいけない。別の領域だけど、そうした新しい取り組みに関心を持っている企業や人たちと連携できれば、大きな事業が生まれると考えています。
    新事業や新しいビジネスモデルを作ろうという時に大切なのは、常に10年先を考えて、バックキャストしていくこと。例えば、私が現在関心のある代替たんぱく質や培養肉といった食物が、10年後には既に新しい食物によって扱いが変わっているかもしれません。つまり、イノベーションを考える時には、「Picture of the Future(未来構想図を描くこと)」を止めてはいけないのです。

  • 山原

    未来の構想はどんどん広がりますね。しかし、領域が広がりすぎると、人とアセットをどこかで集約していかなければいけない、そんな選択をする日が来るのではないかと思います。

  • 西井

    もちろん、構想が広がってくると事業の取捨選択は迫られてくると思います。新たな事業で売上の約10%が常に入れ替わる準備ができている状態が理想ではありますが、経営者としては経済的な価値だけでなく、より多くの人が幸せになるような事業を選択していきたいですね。