日本国内のデジタル広告サービスにおける
不適切業務への対応について
当社および国内グループ会社の一部が国内で提供した広告主向けのデジタル広告サービスにおいて、その適切性に関し疑義のある作業案件が確認されたことにつき、当社は2016年9月に予備調査結果を公表しました。
他方で、当社は、取締役副社長執行役員(当時)中本祥一を委員長とし、外部の専門家(弁護士)を含む社内調査委員会(2016年8月15日付組成)を中心として、社外の他の専門家(公認不正検査士・公認会計士)の助言も得つつ、不適切業務の実態の把握・検証、発生原因の究明および再発防止策の策定を進め、2012年11月1日から2016年7月31日までに提供されたデジタル広告サービス約21.4万件を対象にした調査を2017年1月に終了したほか、不適切業務に該当する案件があった広告主様への該当案件に関する個別のご報告はすでに完了しております。
以下に調査概要、不適切業務の概要、調査結果、発生原因、再発防止策、業績への影響等についてお知らせいたします。広告主様各社をはじめ、関係各位ならびに株主の皆様に多大なるご心配とご迷惑をお掛けしておりますことを、深くお詫び申し上げます。
1.調査概要
- 主体:社内調査委員会(委員長:中本祥一、外部の専門家を含む全4 名の委員で構成)
- 対象取引:当社および国内グループ会社の一部が国内で広告主向けに提供したデジタル広告サービス全般
- 対象会社:デジタル広告サービスを提供していた当社および国内グループ各社の計18社
- 実施期間:2016年8月15日~2017年1月16日
- 対象期間:請求明細データが存在する2012年11月1日~2016年7月31日
- 対象広告主数:対象期間にデジタル広告サービスを提供した2,263社
- 調査手法:
(ア)当社およびグループ各社の役職員への不適切業務であるとの疑義のある案件に関する一斉確認、および報告された内容・結果の精査・確認
(イ)当社およびグループ各社内に保存されている請求明細データ(約21.4万件)等の分析・検証
(ウ)関連する証憑類および電子データ等の分析・検証
(エ)組織・体制・業務フロー等に関する当社およびグループ各社の役職員への個別ヒアリング
2.不適切業務の概要
本調査の結果、次の4つの不適切業務の態様が明らかになりました。
(態様1)事実と異なる出稿総量の報告
- 広告主から依頼された出稿総量を満たしていなかったにも関わらず、あたかも満たしていたかのごとく広告主に報告したもの。
(態様2)出稿実績の内訳が事実と異なる報告
- 出稿総量は広告主からの依頼を満たしていたが、日次の実績が広告主の指示または期待と異なっていたため、総量には影響を与えずに、出稿実績の内訳の一部を変更して報告したもの。
(態様3)日次単位の出稿実績の未報告
- 出稿総量は広告主からの依頼を満たし、出稿実績の運用の報告も広告主から要請された週次・月次単位で行われていたが、日次単位の出稿実績の確認が行われなかったことにより、本来掲載すべきすべての日に広告が掲載されたものと誤信させたもの。
(態様4)精算漏れによる概算での誤請求
- 運用型デジタル広告の性質上、掲載翌月にならないと請求額が確定しないものを、掲載当月に概算金額を登録し、翌月に概算部分の精算を行わず請求していたもの。ここでは、出稿総量・内訳ともに広告主からの依頼を満たし、運用レポートも正確に作成・報告していました。
3.調査結果
2016年9月に予備調査結果を公表した時点では、暫定結果として、不適切業務の疑義があると想定される取引の対象となる広告主数が111社、作業件数は633件、その取引総額は約2.3億円と公表していましたが、その後の全件調査の結果、不適切業務の対象となった広告主数は96社、作業件数は997件(※)であったことが判明しました。
このうち過大な請求をしてしまった案件(態様1)は、10社・40件・338万円でした。なお、上記分類の詳細を確認した結果、96社との取引において、合計1億1,482万円(※)の不適切業務が認められました。
4.発生原因
デジタル広告サービスでは、日々発生する消費者ニーズをリアルタイムに捕捉しながら出稿計画をきめ細かく変更するPDCA作業を伴うため、専門的な知識に加え、複雑かつ膨大な作業を効率的に行っていく必要があります。
今回の調査では、こうした特徴をもつサービスに十分に対応しきれていなかった国内デジタルグループ体制の問題点が明らかになりました。不適切業務の発生原因には、主に次の4つのことが挙げられます。
(1)業務プロセス上の問題
- 各サービスや業務の詳細・特性を組織として適切に把握しきれていなかった結果、業務の標準化、職務分離、チェック体制の構築・運用が不十分であったこと。
- 同時に、サービスの範囲や運用条件を明確に定義し、広告主にお伝えすることができていなかったこと。
(2)リスク管理上の問題
- 業務上のミス等に関するオペレーションリスクを組織として十分に認識できていなかったこと。
- ミスをフォローするフローの標準化など、然るべき対応ができていなかったこと。
(3)人員体制上の問題
- 運用型広告の急速な成長に伴い、現場で必要とされるスキルや業務量が従前より大きく変化していたにも関わらず、質・量の両面で人的リソースの適正配置や研修が十分でなかったこと。
(4)国内デジタルグループ各社との連携不足
- デジタル化の進展に伴い、急速に事業構造が変化していく中で、当社は国内デジタルグループ各社の協力も得ながら事業を拡大してきましたが、同時に人材の多様化が急速に進んだ結果、業務遂行におけるコミュニケーションギャップが生じ、連携が十分ではなかったこと。
5.再発防止策
当社は2016年9月初旬の時点で、当面の対処策として、デジタル広告における人為的なミスや不適切業務の防止を徹底するため、デジタル広告の発注・掲載・請求の内容確認業務を当該業務の担当部署から独立した部署において実施する仕組みを導入しました。
また、調査で明らかになった課題を踏まえ、不適切業務の発生原因の根絶を図るため、次の改善と再発防止策に着手しております。
(1)業務プロセス上の問題への対応
- デジタル広告の掲載確認の中立的な立場での実施と業務上の牽制、特に過大請求の防止徹底のために、「オペレーション業務マネジメント室」を取引現場から独立させた上で、同室内に「デジタル確認課」を新設し、2016年8月以降の案件に関し掲載確認と証憑の発行を開始。
- 出稿実績に関するレポーティングプロセスのシステム化を推進し、人手を介さずに出稿実績レポートを作成する仕組みを構築。
- サービス範囲や運用条件を明確化した「インターネット広告サービス規約」および申込内容の明確化を徹底するための「インターネット広告掲載申込書」の導入。
- 「インターネット広告掲載申込書」からの転記ミスの防止を目的とする、オンライン申込システムの構築。
- 「運用型広告業務改革:業務連携の改善」というテーマで全営業局向けに社内説明会を実施するとともに、同内容の社内研修を対象者を広げて別途実施(1,000人規模)。同研修を通じて、業務プロセスとそれに伴う実務、社内関連部署間の連携を再確認(2016年12月までに実施済み)。
(2)リスク管理上の問題への対応
- 「運用型広告業務改革:業務連携の改善」の社内説明会や社内研修を通じた、業務上のミス、オペレーションリスクなどの共有(継続的に実施中)。
- 運用型広告の関連部署におけるマネジメント職の増員、およびマネジメント単位の細分化によるミスをきめ細かく汲み取りフォローする体制を順次構築。
(3)人員体制上の問題への対応
- 経験者を中心に運用型広告サービスの関連部署への緊急増員(電通本社約30名、グループ各社計90名)を実施(2016年12月までに実施済み)。
- 今後、電通の運用型広告サービス部門およびグループ各社において、最適な人員構成や必要な能力の検証を行った上で、社内異動や中途採用による更なる増員を順次実施(2017年度中に完了予定)。
- 「運用型広告業務改革:業務連携の改善」の社内研修の実施。
- 運用型広告の関連部署におけるマネジメント職の増員、ならびに業務管理と品質監督等の強化を順次実施。
(4)国内デジタルグループ各社との連携不足への対応
- 経営幹部における国内デジタル広告業務の実務・実態に関する理解の促進。
- デジタルグループ連絡会議の定期開催。
- サービス提供体制の総点検と見直し、および主要指標の再考。
- 現場社員がグループ各社の枠組みを超えて課題と解決策を共有できる仕組みの導入。
- デジタル人材の育成と情報共有の強化。
今後も当社は、上記のような国内デジタル広告業務におけるオペレーション精度の向上など、より高品質・高付加価値なデジタル広告サービスの実現に積極的に取り組んでまいります。
6.業績への影響
当社は、本件が過年度の連結決算に重要な影響を及ぼすものではないと判断しております。
7.社内処分について
当社は、不適切業務関連の管理責任を明確にするため、関係執行役員の処分を行うとともに、その他関係社員についても、社内規則に則り厳正な処分を行いました。
(※)2016年9月23日に公表した予備調査結果では、件数を「キャンペーン単位」でカウントしておりましたが、今回の調査では請求における不適切性の検証を重視し、精査の上、件数を「請求明細単位」で統一的にカウントし直しております。