電通
統合レポート
2019

Message

CFOメッセージ

中長期的に価値と利益を生み続ける
企業体の創造のために

取締役執行役員 曽我有信
取締役執行役員 曽我 有信

電通グループは、2018年8月に「電通グループ中期方針」を発表し、その中で2020年までの3つのガイドラインを規定しました。
一つ目は売上総利益のオーガニック成長率です。これは、我々のビジネスがいかに成長しているか、言い換えれば、いかに顧客から必要とされているかを示す指標として考えています。M&Aを除く既存ビジネスの成長を2020年までの3年間のCAGRで3%以上を目指します。
二つ目はオペレーティング・マージンです。これは 我々の顧客に対する付加価値の深度とビジネスの効率性を示す指標であると考えています。提供するソリューションが顧客に高く認められればオペレーティング・マージンは上昇すると考えていますし、また、効率的な事業経営はオペレーティング・マージンの向上に寄与すると考えています。我々は2018年の水準をボトムに改善を目指します。
そして三つ目に、株主の皆様への利益還元として、継続的かつ安定的な配当維持と、業績やキャッシュ・フローの状況に応じた利益還元を約束しています。安定的な配当維持とは、前年対比の一株当たりの配当金額をベースに維持または増配していくことを意味します。また、資産圧縮や資金需要について定期的にレビューを行いつつ、総合的な判断で自社株買いを実施します。

以上をふまえ、2017年~18年を「事業基盤整備」のためのフェーズ1、2019年~20年を「グループ全体の事業変革推進」のためのフェーズ2と位置付けて事業改革を進めています。

2017~2018年度に注力した事業基盤の整備について

図表1:総労働時間と売上総利益の推移(電通単体)
図表1:総労働時間と売上総利益の推移(電通単体)

2017年時点で電通グループの事業基盤は国内外ともに大きなアップデートが求められていました。
デジタル化により加速する社会構造の変革の中において、過去にとらわれない新たな事業基盤を作り直す必要がありました。ソフトウェアで例えるなら、我々の仕事を行う上でOSのアップデートが必要でした。
国内においては、自らの働き方を見直し、改革することから始めました。2017年に開始したこの「労働環境改革」を2018年度までに完遂すべく、約183億円(2017年度・2018年度の累計値)の費用を投じました。KPIを一人当たりの総労働時間と設定し、具体的に以下3つのことを行いました。
一つ目は緊急増員です。これは、従業員一人ひとりに高い負荷がかかっていたものを緩和する一時的かつ即効的な措置として行いました。しかし、これだけでは業務効率が向上したとは言えません。そのため、二つ目として、業務効率化を行いました。業務の棚卸を徹底的に行い、ムダな業務を見直し、やめるべきものはやめ、可能な限り機械化やアウトソーシングを進めました。三つ目はオフィス環境の改善です。デジタル化が進む時代におけるオフィスとは何かを改めて考え、職場環境を作り直しました。
これらの結果、電通単体の社員の総労働時間(年間)は、平均時間と合計時間がともに縮減しました。その一方で、売上総利益については過去最高水準に達し、目標としていた「労働時間の短縮」と「業務品質の向上」の両立に道筋をつけることができました。
一方、海外事業にも課題がありました。一つ目は、事業を拡大しながら、いかに生産性を向上させるかということです。海外事業は2013年のイージス社買収当時から、およそ3倍の規模に拡大しています。その過程で150件以上の買収を実施した結果、ミドルオフィスを中心とした機能重複や、複数のシステムを使用する非効率が発生していました。そこで2017年から2年間をかけて共通プラットフォーム、システム、シェアードサービスを導入しました。これらの投資は、長期的な事業変革につながるとともに、規模拡大の局面において、コストの伸びを抑え、中期的にオペレーティング・マージンを向上させる効果があると考えています。
二つ目は、新領域でケイパビリティを強化し、トップラインを上げていくことです。2016年8月のMerkle Group Inc.(マークル社)の買収を契機として、データ・マーケティング分野のケイパビリティ強化を大胆に進めています。同社のもつ先端のサービス・技術を、当社のグローバルネットワークで展開するために投資を行いました。これにより、中長期的な競争優位性を築くことができると考えています。また、グループ内でのビジネスを通じて得られた知識や事例について、国やブランドの垣根を超えて共有することができるネットワークを構築します。世界中で起きているビジネスの中からヒントを探し、ナレッジを有機的につなげ、提供するソリューションの価値を向上させていきます。これらの投資が結実した時、中長期的に売上総利益を押し上げる効果があると見込んでいます。
三つ目の課題は、優秀な人財の維持、獲得、育成です。デジタルやデータに関して高度なスキルをもつ人財は、業界の枠を超えて獲得競争が激しくなっていま す。2018年度には業績に連動するインセンティブ制度を改訂し、電通グループの最大の資産である人財への投資を行いました。また、ネットワーク内の人財のレベルアップのためにスキル・アカデミー・プラットフォームを導入しました。

2018年度の業績振返り

図表2: 2018年度連結実績
図表2: 2018年度連結実績

2018年の業績を振り返ってみますと、前述のような改革を進行させながらも、トップラインを着実に伸ばせた年であると考えています。この改革に必要だった支出は、現状への対処だけではなく、未来への投資も含まれていますが、業績にその効果が現れてくるまでには時間がかかると考えています。そのため調整後営業利益では減収になりました。詳細を以下で説明します。
2018年度の連結売上総利益は、国内外のオーガニック成長(前期比306 億円増)に海外の買収効果(同286 億円増)が加わり、前期比6.3% 増の9,326億円となりました。なお、為替影響(同42億円減)を排除した実質ベース(以下、実質)では同6.8%増でした。(図表2)
一方、連結調整後営業利益は、国内事業における労働環境改革のための費用増や海外事業における新しい成長フェーズのための企業基盤整備を目的としたIT費用の増加などにより、1,532億円(同6.5%減/実質6.0% 減)となりました。
次に地域別に解説します。
国内事業の売上総利益は、主に子会社の貢献により、3,692億円(同2.0%増)となりました。オーガニック成長率は2.1%となり、特にデジタル領域の伸長が大きく、デジタル領域構成比は23.9%(同1.7ポイント増)となりました。調整後営業利益は、労働環境改革と企業基盤整備への費用投下の結果、802億円(同9.6%減)となりました。
海外事業においては、2013年の電通イージス・ネットワーク組成以降維持してきた成長モメンタムが、2017年に一度足踏みをしましたが、2018年度には前年の新規獲得アカウントからの収益を着実に実現し、事業を拡大することができました。
その結果、海外事業の売上総利益は、全体では5,638億円( 同9.3%増/ 実質10.2%増)、オーガニック成長率は4.3%、デジタル領域構成比は60.6%(同2.7ポイント増/実質2.7ポイント増)そして調整後営業利益は729億円(同2.9%減/実質1.6%減)となりました。地域別の売上総利益は、APAC同0.4%減(実質0.8%増、うちオーガニック成長率はマイナス1.7%)と足踏みがあったものの、EMEAは同15.2%増( 実質13.9%増、うちオーガニック成長率は7.4%)、Americasは同9.8%増(実質12.4%増、うちオーガニック成長率は4.9%)といずれも堅調に推移しました。

調整後営業利益:営業利益から、買収に伴う無形資産の償却費、M&Aに伴う費用、被買収会社に帰属する株式報酬費用ならびに減損、固定資産の売却損益などの一時的要因を排除した恒常的な事業の業績を測る利益指標

2019年~2020年に電通グループが企図する事業変革について

2019年度および2020年度は、海外・国内の事業をそれぞれ伸長させながら、ポスト2020の電通グループ全体の事業変革を進めていく重要なフェーズでもあると考えています。2017年~18年に行った事業基盤の整備が、OSのアップデートに例えるのであれば、2019年から2020年に行うべき成長基盤への投資は、その新しいOSの上で動くアプリケーションの再インストールであると言えます。国内および海外事業に共通する成長基盤の整備を図り、グループ全体視点でケイパビリティと人財を拡充し、より深度の深いビジネスを獲得していきます。そのために、これまでも積極的に投資を実行してきた海外に加え、国内においても投資や外部経営資源との連携を加速します。
国内事業での実例としては、デジタル領域の事業基盤強化を目的として、2018年10月に株式会社セプテーニ・ホールディングスと資本業務提携し、また株式会社VOYAGE GROUPを株式会社サイバー・コミュニケーションズと経営統合することによって電通グループの一員といたしました。両社との連携を更に進め、デジタル広告分野における最高水準のサービス提供の実現を図ります。ソリューション、広告、データテクノロジーの3つの領域で連携を進め、国内における電通グループの地位をより盤石なものとしていくことを狙います。
海外事業では、2019年度以降は、イノベーションの継続とグループがもつ先進的かつ多様なサービスの統合を通じ、ユニークネスの強化を図り、トップラインの継続的な成長を目指します。そして、本格的なデータ・ドリブン・マーケティング時代に適した、シンプルかつ有機的なビジネスラインを再検討・再構築しており、産業変革および社会変革の波を最大のチャンスとしてとらえて、成長モメンタムを形成していきたいと考えています。

資本政策と配当の考え方について

図表3: 配当について
図表3: 配当について

電通グループは引き続き国内・海外での成長領域への積極的な投資を資本配分の最優先事項に据え、持続的な利益成長を追求します。経営の安定性、財務の健全性に留意しつつ、企業活動のグローバル化やデジタル化をチャンスととらえ、事業機会のさらなる創出に向けた投資を行うことで、当社グループの事業成長を実現し、本源的な企業価値の向上を目指します。
同時に、株主の皆様への利益還元を常に意識して経営しています。継続的かつ安定的な配当と、機動的な自己株式の取得を組み合わせることにより、総合的な利益還元を図るとともに、ROEの中期的な向上を目指します。配当については、継続性と安定性を重視しつつ、事業成長のための投資に必要な内部留保や連結業績動向、財務状況等を総合的に勘案して決定していきます。その結果、2018年度の配当は、1株につき90円、配当性向は26.0%としました。なお、2019年の調整後当期利益は減益の予想ながら、5円増配を計画しており、配当性向は、28.1%に上昇する見込みであり、2015年以降、配当額・配当性向ともに、継続的に向上させています。(図表3)

引き続き電通グループの経営に対するご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

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