株主の皆様へ

- 代表取締役 社長執行役員
石井 直
2013年度を振り返って
株主の皆様におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は当社グループに格別のご理解とご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。
2013年度の日本経済は、金融緩和策や経済政策を背景に、輸出企業を中心に企業業績の改善や設備投資に持ち直しの動きが見られるなど、緩やかな回復基調の中で推移しました。こうした経済環境の中、2013年(暦年)の「日本の広告費」(当社調べ)は、5兆9,762億円(前年比1.4%増)と、2年連続で前年実績を上回りました。特に年度後半は、景気の回復傾向と消費税増税前の駆け込み需要の影響もあって、好調に推移することとなりました。
一方、世界経済は、米国が緩やかな回復基調を継続し、欧州もようやく底入れの兆しが見え始めたものの、中国をはじめ新興国の景気減速懸念が強まるなど、先行き不透明感が拭い切れない状況が続きました。当社グループのCaratが2014年9月に取りまとめた2013年(暦年)の世界の広告費成長率は、前年比3.6%増、地域別では、ラテンアメリカは前年比9.7%増(過去最高)、アジアパシフィック同5.1%増、中央および東ヨーロッパ同5.0%増、北米同4.2%増、西ヨーロッパ同1.4%減となっております。
世界的に広告費に成長が見られる中、当社グループは、英国上場の広告会社イージス・グループを買収し、グローバル企業としての新たな成長ステージに向けた一歩を踏み出しました。買収後の統合作業はほぼ完了し、数多くの新規アカウントを獲得するといった成果に結びついています。
日本国内では、クライアントニーズの高まりを受け、デジタル技術やビッグデータの積極的な活用を進めるとともに、統合的なソリューションの提供に努めました。こうした取り組みが消費税増税前の駆け込み需要の取り込みにもつながるなど、期初の想定を上回る業績を達成することができました。特に電通単体の経常利益および当期純利益は、過去最高益を更新することとなりました。
この結果、2013年度の連結業績は、売上高2兆3,093億59百万円(前年度比19.0%増)、売上総利益5,940億72百万円(同71.7%増)、のれん等償却前営業利益1,141億86百万円(同81.7%増)、営業利益714億90百万円(同22.3%増)、経常利益825億38百万円(同39.8%増)、当期純利益388億円(同6.8%増)となっています。
新中期経営計画「Dentsu 2017 and Beyond」の進捗状況
- *1
- 近年のデジタルメディアやソーシャルメディアの普及、消費者の行動様式の変化、各種テクノロジーの進化による、マーケティングの新たなパラダイム。
2013年3月に完了したイージス・グループ買収により、そのあるべき姿に向け、新しいステージに突入した当社グループでは、2013年度を初年度とする新中期経営計画「Dentsu 2017 and Beyond」を策定いたしました。①グローバルでのポートフォリオ多極化、②デジタル領域の進化と拡大、③ビジネスプロセスの革新と収益性向上、④コア・コンピタンスである日本市場でのさらなる事業基盤強化の4つを戦略骨子と定め、世界の各地域の事業環境に応じた戦略を遂行しており、確かな手応えを感じています。5カ年の新中期経営計画の初年度となる2013年度は、以下のように、前年度を上回るパフォーマンスを達成することができました。

- (注)
- 当社の連結会計年度: 毎年4月1日から翌年3月31日まで(例:2013年度は2013年4月1日から2014年3月31日まで)
- *2
- オーガニック成長率:為替やM&Aの影響を除いた内部成長率
- *3
- のれん等償却前オペレーティング・マージン:のれん等償却前営業利益÷売上総利益×100
のれん等償却前営業利益:営業利益+のれん償却費+無形固定資産償却費(除くソフトウエア償却費)
オーガニック成長率については、市場成長を大きく上回った日本事業の貢献もあり、2013年度の成長率は、中期経営計画期間の想定レンジを超える高い水準を達成しました。海外事業についても、為替の追い風もあるものの、順調に拡大しております。また、デジタル領域の構成比と、オペレーティング・マージンについても着実に進捗するなど、新中期経営計画初年度として、非常に良いスタートを切ることができたと認識しております。
また、2013年度は、2009年7月に策定した前中期経営計画の最終年度でもありました。イージス・グループ買収の影響を除いても、前中期経営計画で目標としてきた経営目標(連結営業利益700億円、オペレーティング・マージン20%以上、ROE8%)をほぼ達成することができました。新中期経営計画においても、前中期経営計画で示した目標達成への強い意志をもって、経営努力を続けてまいります。
新中期経営計画の4つの戦略骨子
既に、今年度は新中期経営計画の2年目を迎えておりますが、5カ年計画で定めた数値目標の背景にある戦略の進捗状況と今後の方針について、4つの戦略骨子に沿ってご説明いたします。
①グローバルでのポートフォリオ多極化
まず、最重要課題である「グローバルでのポートフォリオ多極化」については、2013年3月、旧イージス・グループと旧電通ネットワークを統合し、海外事業を運営する電通イージス・ネットワークを発足いたしました。これにより、従来2つのネットワークが有していた成長の勢いを継続させると同時に、相互のシナジーをより一層引き出してまいります。
統合作業が順調であることは、新規アカウント獲得や、競合他社を大きく上回り続けている電通イージス・ネットワークの成長率が物語っています。この売上総利益のオーガニック成長は、クライアントから高く評価されている「One P&L」というユニークなオペレーティング・モデルが十分に機能した結果でもあります。また、電通イージス・ネットワークの基幹ブランドであるCaratは、メディア・エージェンシー調査機関RECMAによる2014年3月の「グローバル・メディア・ネットワーク」のランキングで第1位という評価を受けました。このユニークネスにさらに磨きをかけ、今後も高いパフォーマンスを続けていきたいと考えています。
②デジタル領域の進化と拡大
さまざまな領域におけるデジタル技術の進展は、当社グループのクライアントのビジネスプロセスにも大きな変化をもたらしており、日々進化を続けるデジタル技術の積極的な活用は、ビジネス成功における重要なファクターとなっています。こうした環境下、当社グループは、クライアントのビジネスの成功をより直接的にサポートする先端的なソリューションを提供することを目指しており、このデジタル領域を成長ドライバーと位置づけています。
電通イージス・ネットワークにおける360iや、Isobar、iProspectが業界各誌の広告賞を受賞するなど、グローバルベースでトップクラスの競争力を持つこれらのブランドが牽引し、デジタル領域の成長は順調に拡大しています。もちろん、日本においても、デジタルは引き続き最重点項目の一つであり、デジタルビジネスの売上総利益は2013年度も二桁成長を続けています。
今後もケーパビリティ強化の有力な手段として、デジタル領域における買収を積極的に活用しながら、必要とされるデジタル投資やグループ内のナレッジの共有、R&D機能の統合などを進め、ワールドワイドでデジタル領域の拡充を目指してまいります。
③ビジネスプロセスの革新と収益性向上
グローバルベースで積極的な投資や事業展開を行い、持続的な成長を目指すには、安定したキャッシュ・フローを生み出す収益基盤が必要であり、継続的な課題として基幹ビジネスの収益性向上に取り組むことが重要であると考えています。そのために、コスト抑制に取り組み、サービス領域ごとに、当社を含めたグループ各社の機能を整理した上で必要な再編を実施し、利益を最大化するバリューチェーンの再構築を進めてまいります。また、保有する資産についても、収益性の観点から見直しを行い、資産効率の向上を図っています。
2013年度は、日本事業における収益性の改善が大きく進みました。持続的なコストコントロールに加え、連結ベースの原価低減と業務効率向上に向けた取り組みの継続と、収益性の高いフィービジネスの拡大に注力することによって、今後も収益性のさらなる改善を目指してまいります。一方、電通イージス・ネットワークではIT、人事、ファイナンスなどの分野で、将来に向けた経営基盤の整備を進めており、今後の電通イージス・ネットワークのマージン向上への寄与を想定しています。
④コア・コンピタンスである日本市場でのさらなる事業基盤強化
当社グループは、イージス・グループ買収により、本格的なグローバル・ネットワークを有することとなりましたが、コア・コンピタンスは、日本における強固な事業基盤であることに変わりはありません。これまで以上に競争力を強化し、収益性の向上、さらなる事業基盤の強化に努め、持続的成長を実現していきます。
現在、日本の広告市場規模は2007年のピークと比べ、90%を割り込む水準で推移しているのに対し、ここ数年の当社グループの日本事業は、非常に力強いパフォーマンスを続け、2013年度も市場の伸びを大きく上回り、過去最高水準の売上総利益となりました。
これまで、媒体社とともに力を入れてきたメディアの価値再構築の取り組みによって、マスメディアビジネスは、数年前の大方の予測を、良い意味で裏切る底堅さとなっています。一方で、デジタルやプロモーションをはじめとした非マス領域は、技術や手法を開発・進化させてきたことで、クライアント課題への対応力を高め、重要な収益基盤に育ってきています。マスメディアビジネスと非マス領域のビジネスが両輪となって収益を生み出す統合ソリューション型の収益構造への進化も着実に進んでおり、引き続きさらなる進化を目指してまいります。

- *4
- 電通単体と国内子会社の売上総利益の単純合算値を使用
- *5
- 『日本の広告費』(当社発行)を年度ベースに引き直した数値を使用
2014年度の業績見込みについて
2014年度の通期連結業績については、2014年5月に発表いたしましたとおり、売上高2兆3,712億円(前年度比2.7%増)、売上総利益6,230億円(同4.9%増)、のれん等償却前営業利益1,155億円(同1.2%増)、営業利益725億円(同1.4%増)、経常利益779億円(同5.6%減)、当期純利益311億円(同19.8%減)を見込んでいます。
今後の市場展望
2014年(暦年)の世界の広告市場は、多くの地域で前年より改善傾向にあり、「第22回オリンピック冬季競技大会(2014/ソチ)」「第11回パラリンピック冬季競技大会(2014/ソチ)」や「2014FIFAワールドカップブラジル大会」、米国での中間選挙などの大型イベントの寄与により、前年比5.0%増、5,542億米ドルになると予想されています。特にラテンアメリカの成長は著しく、アジアパシフィックも順調に成長するものと予測しています。また、2012年、2013年とマイナス成長が続いた西ヨーロッパ(英国のみプラス成長)についても、一部でまだ厳しい地域はありますが、全体では回復基調にあり、 2014年は前年比2.7%増とプラス成長へと転じる見込みで、北米も引き続き安定した成長が予想されています。日本においては、消費税増税の影響に懸念が残るものの、景気回復基調の継続、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催決定により、2014年が前年比2.0%増、2015年は同1.7%増と予測されており、4年連続で前年を上回る見通しです。
続いて、各地域における戦略の骨子について、概要をご説明いたします。
世界最大の広告市場である米国については、当社グループにとってシェア拡大の余地が十分に存在しており、米国でのビジネス拡大が、米国系のグローバル企業を中心とした顧客基盤の拡充に直結いたします。そのため、既存ネットワークの連携強化によるシェア拡大に注力してまいります。また、アジアや新興国については、今後も引き続き高い成長機会を有すると捉えております。一方、一層の事業基盤拡充が必要とされる国や地域もございますので、M&Aなどを通じて、事業スケールとリーディング・ポジションの確保を積極的に推進してまいります。成熟した日本と西ヨーロッパについては、当社グループは既に確固たる事業基盤を確立しております。そのため、既存の事業基盤の維持・強化に向けて、さらなる収益性向上に取り組むとともに、従来型広告ビジネスに止まらない新たな成長機会の創造・獲得に注力してまいります。
上記のとおり、当社グループは世界の各市場において、市場成長を上回る成果を残すことができるよう、グループ一丸となって、クライアントの成功と成長を支援し続ける重要なパートナーへ進化するべく、最善のサービスを提供してまいる所存です。
最後に、中期経営計画においても大変重要なファクターとなります2020年の東京オリンピック・パラリンピックについて、申し添えさせていただきます。4月に発表がありましたとおり、一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から、マーケティング専任代理店として指名を賜りました。とても大きな使命と責務を負ったと受け止めており、大会の成功に向け、専任代理店として力を尽くしてまいります。東京でのオリンピック・パラリンピックの開催は、2020年はもとより、その先の日本の未来を創り上げる上でも、大きな意味を持つはずです。「Good Innovation.」を企業理念とする当社グループとしては、日本全体の成長、日本全体のイノベーションの実現に、グループの総力を挙げて貢献したいと考えています。
今後も「Good Innovation.」を推進するグローバル・ネットワークとして社会に創造と変革をもたらし、世界のどの地域においても最良のパートナーとして選ばれ続けるグループとしての価値向上に取り組み、さらなる成長を果たしてまいります。
株主の皆様におかれましては、今後とも当社グループへのご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2014年9月
- 代表取締役 社長執行役員